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クライアント証明書とは?仕組みや導入メリットを解説
Written by WizLANSCOPE編集部
目 次
クライアント証明書とは、アクセスしてくるユーザーやデバイスが正当なものであることを証明するための電子証明書です。
サーバー側で、クライアント証明書を保有するデバイスのみアクセスを許可する設定を行うことで、なりすましなどの不正アクセスを防止できます。
そのため、BYODやリモートワークが普及する昨今、セキュリティ強化の手段として注目が高まっています。
本記事では、クライアント証明書の仕組みやメリット、導入手順などを解説します。
▼本記事でわかること
- クライアント証明書の仕組み
- クライアント証明書のメリット
- クライアント証明書の導入手順
クライアント証明書の導入を検討されている方はぜひご一読ください。
クライアント証明書とは

クライアント証明書とは、アクセスしてくるユーザーやデバイスが正当なものであることを証明するための電子証明書です。
サーバー側で、「クライアント証明書を保有するデバイスのみアクセスを許可する」設定を行うことで、第三者によるなりすましや不正アクセスを防止できます。
企業・組織では、従業員が使用するPCやスマートフォンなど、許可されたデバイスのみが特定のシステムやネットワークにアクセスできるようにする目的で、クライアント証明書が利用されています。
サーバー証明書との違い
クライアント証明書がユーザーやデバイスなどの「アクセスする側」の身元を証明するのに対し、サーバー証明書はWebサイトやサーバーなどの「アクセスされる側」の身元を証明する電子証明書です。
サーバー証明書には、証明書の発行者による署名情報のほか、Webサイトの運営者情報や、通信を暗号化する際に使用される公開鍵などの情報が含まれています。
サーバー証明書が導入されているWebサイトでは、ブラウザのURL欄の左側に鍵マークが表示されます。
この鍵マークは、通信がTLSによって暗号化されていることを示しており、第三者による盗聴や改ざんのリスクが低減されていることがわかります。
クライアント証明書の必要性

近年クライアント証明書の必要性が高まっている背景としては、以下が考えられます。
- セキュリティリスクが増加しているため
- 認証の効率化が求められているため
詳しく確認していきましょう。
セキュリティリスクが増加しているため
近年、サイバー攻撃の手口は巧妙化が進み、従来のID・パスワードによる認証だけでは企業の情報資産を十分に守ることが難しくなっています。
例えば、フィッシング攻撃や総当たり攻撃に加え、従業員のデバイスを狙ったマルウェア感染など、認証情報の流出につながるリスクは年々増加しています。
こうした状況の中で、「本人確認の確実性」を高める手段として注目されているのが、クライアント証明書による認証です。
クライアント証明書を導入することで、単純なパスワード認証と比べて、より強固なセキュリティが構築できます。
企業の機密データや業務システムへの不正アクセスを効果的に防止することが可能になるとして、セキュリティ対策の強化手段として注目を集めています。
認証の効率化が求められているため
IT技術の発展に伴い、業務効率化を図れるさまざまなクラウドサービスが登場しています。
こうした環境の変化により、企業・組織では、クラウドサービスや業務システムなど、複数のアプリケーションを併用することが一般的になっています。
一方で、クラウドサービスを利用するたびにIDやパスワードを入力する運用は手間がかかるうえ、入力ミスやパスワード忘れといった運用上のトラブルも発生しやすくなります。
そこでクライアント証明書を利用すれば、あらかじめデバイスに証明書をインストールしておくことで、自動的に本人認証が行われるため、ユーザーが毎回認証情報を入力する必要がなくなります。
その結果、シームレスなログインが可能になり、利便性を損なうことなく高いセキュリティを確保できます。
特に、リモートワークやBYOD(個人デバイスの業務利用)が広がる現在、クライアント証明書による「安全で快適なログイン体験」は、多くの企業にとって欠かせない仕組みとなりつつあります。
クライアント証明書の仕組み

クライアント証明書を利用した認証は、以下の流れで行われます。
- クライアント証明書をインストールする
- サーバーへのアクセス時にクライアント証明書を提示する
- サーバー側でクライアント証明書の有効性を確認する
- クライアント証明書有効であればアクセスを許可する
まずはPCやスマートフォンなどのデバイスにクライアント証明書をインストールします。
その上で社内システムやクラウドサービスなどにアクセスすると、デバイスは自動的にクライアント証明書をサーバーへ提示します。
サーバーは提示された証明書の発行元や有効期限、改ざんの有無などをチェックし、証明書の有効性が確認できた場合にのみ、サーバーへのアクセスを許可します。
逆に、証明書がインストールされていないデバイスや不正な証明書を持つデバイスからのアクセスは、身元が確認できないため自動的にブロックされます。
このように、クライアント証明書はデバイスレベルで身元を確認する仕組みにより、パスワードのみに依存しない、より安全で確実なアクセス制御を提供します。
クライアント証明書のメリット

クライアント証明書を導入することで、以下のようなメリットが期待できます。
- 情報漏洩リスクの低減
- リモートアクセスのセキュリティ強化
- ID・パスワード管理からの脱却
詳しく確認していきましょう。
情報漏洩リスクの低減
クライアント証明書を導入することで、デバイスやユーザーがあらかじめ許可されたものであることを証明し、アクセスを制御できます。
仮に、デバイスに証明書がインストールされていない場合や、不正・無効な証明書が使用された場合には、アクセスを自動的にブロックすることが可能です。
これにより、不正アクセスやなりすましなどによる情報漏洩リスクを大幅に低減できます。
リモートアクセスのセキュリティ強化
テレワークやリモートワークの普及、モバイルデバイスの活用やBYODなどにより、業務を行う場所やデバイスが多様化する近年、アクセス元が信頼できるデバイスかどうかを判定することの重要性が高まっています。
そこでクライアント証明書を導入すると、社外やモバイル環境からのアクセスであっても、「証明書を保有するデバイスのみ許可する」といった制御が可能になり、セキュリティを強化しながら利便性も維持できます。
ID・パスワード管理からの脱却
従来のID・パスワードのみを利用した認証方式では、ユーザーが複数のサービスに対して異なるパスワードを設定・記憶する必要があり、パスワードの使い回しや脆弱なパスワードの設定といったリスクが生じていました。
一方、クライアント証明書をあらかじめデバイスにインストールしておくことで、アクセス時にユーザーがパスワードを入力する手間を軽減しつつ、かつデバイス・ユーザーが正当であることを証明できます。
さらに、「クライアント証明書+ID・パスワード」といった二要素認証を採用することで、より厳格で強固な認証が可能になります。
クライアント証明書の主な用途

クライアント証明書の代表的な用途としては、「二要素認証」「BYOD」「リモートアクセス」が挙げられます。
クライアント証明書が具体的にどのように使われるのかを確認していきましょう。
二要素認証
二要素認証とは、「知識情報」「所持情報」「生体情報」の3つの認証要素のうち、異なる2つの要素を組み合わせて本人確認を行う認証方式です。
この所持情報に、「クライアント証明書」が該当します。
| 知識情報 | パスワードや暗証番号などの本人だけが知っている情報 |
|---|---|
| 所持情報 | クライアント証明書やスマートフォンなどの本人だけが所持している情報 |
| 生体情報 | 指紋や虹彩などの本人固有の身体情報 |
例えば、「パスワード(知識情報)+クライアント証明書(所持情報)」による二要素認証を導入することで、万一パスワードが流出した場合でも、クライアント証明書を保有していない第三者はアクセスできません。
これにより、なりすましや不正ログインのリスクを大幅に低減できます。
BYOD
BYOD(Bring Your Own Device)とは、従業員が私物のスマートフォンやタブレット、ノートPCなどを業務に利用することです。
このBYODにおける安全性を確保する手段として、クライアント証明書が活用されています。
BYODを導入することで、企業側には、従業員へ貸与するデバイスの購入・管理コストを削減できるというメリットがあり、従業員側には、使い慣れた私物のデバイスを利用できるため、新たに操作方法を覚える必要がないというメリットがあります。
一方で、BYODを許可すると、業務用として管理されていないデバイスが社内システムに接続することになり、セキュリティ管理が複雑化するという課題が生じます。
そのため、クライアント証明書をインストールしたデバイスのみが社内システムへアクセスできる環境を構築することが重要です。
リモートアクセス
リモートワークや外出先からの業務が一般化したことで、社外ネットワークから社内システムへアクセスする機会が増えています。
クライアント証明書を活用すれば、社外からのアクセスであっても、証明書を保有するデバイスのみ接続を許可できるため、VPNやリモートデスクトップなどのリモートアクセス環境における安全性を大幅に高めることが可能です。
これにより、従業員の利便性を損なうことなく、企業データへの不正侵入を効果的に防止できます。
クライアント証明書の導入手順

クライアント証明書を導入する際の手順を解説します。
- 手順(1):クライアント証明書発行サービスの選定
- 手順(2):クライアント証明書の申し込み
- 手順(3):審査
- 手順(4):クライアント証明書の発行
クライアント証明書の導入を検討されている方はぜひ参考にしてみてください。
手順(1):クライアント証明書発行サービスの選定
まずは、クライアント証明書の発行サービスを選定することから始めます。
発行サービスを選ぶ観点はさまざまですが、なかでも証明書の有効期間は重要なポイントの一つです。
一般にパブリック認証局が発行するクライアント証明書は、有効期限が1年や2年などあらかじめ定められていることが多いですが、プライベート認証局の場合は、ユーザーが有効期限を自由に設定できます。
有効期間が長い証明書は、更新作業の手間が軽減されるというメリットがあります。
一方で有効期間を短く設定すれば、更新頻度は増えるものの、セキュリティの強化につながります。
こうしたメリット・デメリットを踏まえ、自社の運用体制やセキュリティ要件に適したサービスを選ぶことが重要です。
また、発行サービスの中には、自社システムとAPI連携し、クライアント証明書の発行や更新を自動化できるものもあります。
クライアント証明書の発行や更新をスピーディーかつ効率的に行いたい場合には、システム連携が可能なサービスを選ぶことも有効な選択肢といえるでしょう。
手順(2):クライアント証明書の申し込み
発行サービスを選定したら、次にクライアント証明書の発行申請を行います。
申請時には、組織情報や管理者情報に加え、対象となるユーザーまたはデバイスの情報を登録します。
この際、「どの部署の、どのPCやスマートフォンに証明書を配布するか」をあらかじめ明確にしておくと、その後の運用管理や失効処理がスムーズに行うことができます。
また、申請段階で「どのシステム・アプリケーションで証明書を利用するのか」を整理しておくと、アクセス制御の設定や導入テストが効率的に進められるでしょう。
手順(3):審査
次に認証局による審査が行われます。
認証局では、申請内容の正当性や申請者が所属する組織の実在確認などについて確認し、適切な認証手続きを実施します。
この審査は、なりすましや証明書の不正発行を防ぐための重要なプロセスです。
審査内容は、利用する証明書の種類(個人証明書・組織証明書など)や発行ポリシーによって異なりますが、一般的には、申請者の身元確認や、登録されたドメイン・組織情報の照合が行われます。
審査完了までに要する期間は、サービスや申請内容にもよりますが、数時間から数日程度が目安とされています。
手順(4):クライアント証明書の発行
審査が完了すると、クライアント証明書が発行されます。
発行された証明書は、PCやスマートフォン・タブレットなど、実際利用するデバイスへインストールします。
証明書のインストール方法は、デバイスやOSによって異なりますが、多くの場合、管理者が配布用のURLや証明書ファイルを通じて、ユーザーデバイスに安全に導入することが可能です。
企業によっては、MDM(モバイルデバイス管理)ツールと連携して、証明書を一括配布・更新する仕組みを導入しているケースもあります。
証明書が正しくインストールされると、アクセス時に自動的にサーバーに提示され、サーバー側で証明書の有効性が確認されることで認証が行われます。
これにより、ユーザーが毎回パスワードを入力する必要がなくなり、正規のデバイスからのみアクセスを許可する安全かつ利便性の高い認証が可能となります。
まとめ
本記事では「クライアント証明書」をテーマに、その仕組みや導入メリットなどを解説しました。
▼本記事のまとめ
- クライアント証明書とは、アクセスするユーザーやデバイスが正当なものであることを証明するための電子証明書
- クライアント証明書を導入することで、「情報漏洩リスクの低減」「リモートアクセスのセキュリティ強化」といったメリットが期待できる
- 代表的な利用シーンとして、「二要素認証」「BYOD」「リモートアクセス」などが挙げられる
近年、クラウドサービスの利用拡大やリモートワークの普及により、企業のIT環境は大きく変化しています。
それに伴い、外部からの不正アクセスや情報漏洩といったセキュリティリスクも増加しています。
こうした課題への対策として、本記事で紹介したクライアント証明書の導入は有効な手段の一つといえるでしょう。
一方で、クライアント証明書の導入には、運用負荷やコストが発生する点にも注意が必要です。
自社のセキュリティ要件や運用体制、メリット・デメリットなど考慮したうえで、最適な方式を選定・導入することが重要です。
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