Written by WizLANSCOPE編集部
簡単なようで実際にやってみると意外に難しいことが仕事の引継ぎです。
特に情シスの引き継ぎは、会社の根幹システムの情報を引き継ぐことになるため、慎重に実施する必要があります。
私も過去に何度か引継ぎをする立場も、引き継がれる立場も経験がありますが、どうしても引き継ぎに漏れや認識齟齬が発生してしまいます。
その度に「確実に次の担当者に引き継ぐにはどうすればよいんだろう?」と反省することしきりでした。仕事が出来る人ほど引継ぎが抜群にうまいですし、後任がトラブルに見舞われるのは、前任者の引継ぎが間違いなく悪いとも言えます。
そこで今回は情シスでの引き継ぎ業務ノウハウについて書いてみたいと思います。ぜひ実際に引き継ぎをするときに参考にしていただければ幸いです。
情シスの引き継ぎ
情シスで行われる引き継ぎには次のようなものがあります。
- 担当者の交代による引き継ぎ
- システムの保守ベンダー変更による引き継ぎ
- 情シス業務を外部ベンダーにアウトソースすることによる引き継ぎ
まずは現状確認

引き継ぎを行う前に、漏れを無くすために現状の確認から始める必要があります。確認は次のような項目に沿って行います。
関係者の洗い出し
どのような体制で業務を行っているのかを洗い出します。
もちろん社内だけでなく、社外の関係者やその連絡先も洗い出すようにしましょう。
ドキュメントの洗い出し
次に、現状どのようなドキュメントがあるのかを洗い出します。
ファイルの保管場所についてもあわせて洗い出しましょう。
ドキュメント例
- ネットワーク論理構成図
- ネットワーク物理構成図
- ポート収容表
- IPアドレス一覧
- ネットワーク設計書
- サーバ設定一覧
- セキュリティポリシー
- ソフトウェア構成図
- データベース設計書
- アプリケーション設計書
- 機能仕様書
- 操作マニュアル
- 保守契約一覧
- 障害時対応マニュアル
- その他
業務内容の洗い出し
仕事の進め方や進捗状況など、ドキュメントに残らない内容も漏れなく引き継ぐ必要があります。
通常業務はもちろんですが、「目に見えない経験(暗黙知)」の部分も抜け漏れなく引き継ぐことが重要です。
例えば、「あの人はxxな性格だから、会議のときはxxな感じで」「このシステムはxxなクセがあるから、xxの方法で対処して」など、ドキュメントに残らない暗黙知は意外に多く存在します。
不具合の関係で特別な設定をしていたり、フロアの関係で一部のケーブルの配線状況が異なるなど、細かいことですが重要です。
引き継ぎ時にやってはいけないこと

引き継ぎの際に「やってはいけないこと」についても整理しておきましょう。
引き継ぎにはさまざまなパターンが存在しますが、ここで説明する「やってはいけないこと」はどのパターンの引き継ぎにも当てはまります。
「分からなかったら聞いて」前提で引き継ぐこと
引き継ぎを口頭で済ませたり、簡単な引き継ぎで終わらせて、「分からなかったら聞いて」で済ませてしまうパターンには注意が必要です。
引き継ぎの手間や時間は少なくなりますが、
聞きたいときに前任者がいなくなっていたり、聞いたときには前任者がすでに忘れてしまっている場合もあります。
よくあるのが、引き継ぎを口頭だけで済ませたり、最低限の説明だけで終わらせて、「分からないことがあれば聞いて」と後任者に委ねてしまうケースです。
前任者にとっては手間をかけずに済むため、楽な方法かもしれません。しかし、後任者にとっては決して親切な引き継ぎとはいえません。
実際に業務を進める中で疑問が生じたとき、すでに前任者が異動や退職などでその場にいないことがあります。また、たとえ連絡が取れたとしても、時間が経てば前任者自身が当時の判断や経緯を忘れてしまっていることもあります。
そのため、「分からなかったら聞いて」で終わらせるのではなく、後任者が一人でも業務を進められるよう、必要な情報や判断の背景まで残しておくことが重要です。
文章だけの引き継ぎ
口頭での説明をほとんど行わず、引き継ぎ資料だけを渡して引き継ぎを終わらせてしまうケースにも注意が必要です。
前任者にとっては、担当してきた業務の内容や進め方をすでに理解しているため、「資料を見れば分かるだろう」と考え、引き継ぎを簡単に済ませてしまいがちですが、後任者にとっては、それが決して当たり前とは限りません。
資料には、前任者が「当然のこと」と考えて、あえて書かなかった情報が意外と多くあります。なぜこの方法で進めているのか、どこに注意すべきなのか、過去にどのような問題があったのかなど。こうした情報は、資料だけでは伝わりにくいものです。
だからこそ、引き継ぎでは書面を渡すだけで終わらせず、実際に顔を合わせて説明することが重要です。
対話しながら進めることで、後任者から質問が出てきます。そして、その質問によって初めて、前任者が「これは説明しなくても分かるだろう」と思い込んでいた情報の抜け漏れにも気づくことができます。
引き継ぎ資料は、あくまで引き継ぎを支えるためのものです。
資料を渡して終わりではなく、資料をもとに会話をすることで、実効性のある引き継ぎにすることができます。
手順だけのドキュメント
「文章だけの引き継ぎ」よりも、さらに問題なのが、業務の手順だけをまとめて引き継ぐパターンです。
「この場合はAをする」「次にBをする」といった作業手順は書かれていても、その業務が何のために行われているのか、なぜその手順になっているのか、どのような関係者や業務とつながっているのかといった情報が抜け落ちているケースがあります。
また、本来の引き継ぎで伝えるべきなのは、手順だけではありません。業務の目的や背景、これまでの経緯、関連する情報まで含めて引き継ぐことが重要です。
手順だけを引き継いでしまうと、業務内容に変更があった際に、「どの部分を変更すればよいのか」「なぜこの手順になっているのか」が分からなくなります。また、業務の全体像を理解していなければ、既存の手順を見直して、より効率的な方法に改善することも難しくなります。
手順書は、業務を再現するためには欠かせません。しかし、それだけでは業務そのものを引き継いだことにはなりません。「何をするか」だけではなく、「なぜするのか」まで伝えることが重要です。
私もよく分からない
引き継ぎにおいて、最も避けたいのが「自分もよく分かっていないので、あとは頑張ってください」というパターンです。
前任者自身が業務を十分に把握できていなかったとしても、それを理由に引き継ぎを行わないことは適切ではありません。
さらに問題なのは、このような引き継ぎが繰り返される可能性があることです。
十分な説明を受けなかった新任者が、次の担当者へ引き継ぐ際にも「自分もよく分からないから」と同じ対応をしてしまえば、業務に関する知識やノウハウは組織内に蓄積されません。担当者が代わるたびに情報が失われ、誰も業務の全体像を把握していないという状態にもなりかねません。
たとえ自分自身が前任者から十分な引き継ぎを受けていなかったとしても、担当していた期間には、実際に業務を進める中で得た知識や経験があるはずです。
「何をしていたのか」「どのような手順で進めていたのか」「どこに注意が必要なのか」「分からないことは何なのか」など、自分が把握している範囲だけでも整理して伝えることが重要です。
引き継ぎの進め方
基本的な引き継ぎの進め方には、次のような流れになります。
業務内容の共有
どのような業務があるのかを、目的や経緯、関連情報も含めて共有します。
定型業務や今後の作業予定などがある場合、スケジュールを共有して、いつどのようなイベントがあるのかも含めて共有しておきます。
また、社内調整に手間の掛かる業務や事前準備に時間がかかるような業務については、効率的な社内の調整ノウハウや事前の段取り方法なども併せて共有しておきましょう。
管理しているシステムの説明
管理している社内システムについて説明します。
システムに関するドキュメントが多い場合は、理解すべきポイントの概要を説明しつつ、どのドキュメントがどこに保存されているかを含めて説明しておきます。
また、システムのトラブル事例なども共有しておきます。過去にどのようなトラブルが発生したか、そしてどのような対応を行ったのかといった暗黙知になりがちな内容も忘れずに共有するようにします。
引き継ぎ書に記載する内容

引き継ぎ書には最低限次の内容を含めるようにしましょう。
- 業務概要
- 社内システム概要
- ドキュメント一覧
- 関係者一覧(社内、社外含む)
- 業務手順
- 現状の課題やトラブル内容
業務概要
ここでは、詳細な内容は記載せずに、業務の目的や要件と作業内容などを整理します。
なお、「なぜその業務やシステムが存在するのか?」という業務の目的は必ず記載するようにしましょう。
目的を理解していないと、今後どのように業務の改善やシステムの改修をしていけばよいのかが分からず、いつまでたっても課題を残したままになってしまうことも考えられます。
また、業務内容は次のように何らかの軸で分類して記載すると、引き継ぎを受ける側の理解が早くなります。
- 定型業務か非定型業務か
- 作業ボリュームが多いか少ないか
- 定期的な業務か臨時的な業務か
- 急ぎの業務か時間に余裕がある業務か
社内システム概要
社内システムの要件や概要を記載します。
ここでは、システムの要件や概要、導入目的などの大枠を整理します。
詳細な内容については別途ドキュメントの一覧を記載して、必要な時に何を見ればよいのかが分かるようにしておきます。
特にシステム構築時のノウハウや、今後の改修予定、システムの課題など暗黙知になりがちな内容も記載しておきましょう。
関連者一覧(社内、社外含む)
業務に関連する関係者の一覧を記載します。
特に業務やシステムで分からないことがあったときに誰に確認すればよいのかは、不慣れな新任者にとってはありがたい情報です。
関連者一覧には社内だけではなく、社外のベンダーの担当者なども記載しておきましょう。トラブルが発生した際や、機器の仕様を確認したい場合などに役立ちます。
業務手順
日々の業務手順を記載します。
特に定型的な業務は手順化されていることが多いため、手順は必ず共有しましょう。
また、なぜその手順なのか、なぜその作業をしているのかということも含めて記載します。
現状の課題やトラブル内容
引き継ぎ時に残っている課題や、トラブルについても一覧化して記載します。
各課題には優先度や重要度が記載して、新任者が何から手を付ければよいのか分かるようにします。
泥臭い情報こそ共有する

関係者の性格やグループ内の派閥など、泥臭いけれど重要な情報も忘れずに共有しましょう。
「あの人に聞くより、この人に聞いたほうが確実」「○○部長の承認を得るなら、□□のように進めるとスムーズ」といったポリティカルな情報は、新任者にとって一般的な引き継ぎ事項以上に役立つことがあります。
また、仕事ができる人ほど、日々の対応で得たTipsや注意点をメモとして残しているものです。そうしたメモがあれば、それも立派な引き継ぎ資料になります。
たとえば、ローカル環境にWikiを用意し、日々の業務で得た知識やTips、トラブルへの対応方法などを蓄積しておく方法もあります。引き継ぎ書とあわせて「困ったときは、まずWikiを検索する」という運用まで共有しておけば、新任者が問題に直面した際にも自力で解決しやすくなります。
さらに、新任者のITスキルに不安がある場合は、おすすめの参考書やWebサイトなど、業務をキャッチアップするための情報も一緒に共有しておくとよいでしょう。
まとめ
会社や情シスの業務内容によって引き継ぐべき内容は異なりますが、今回は基本的なポイントを紹介しました。
今や社内システムの安定稼働は、会社の業務そのものを支える重要な要素です。担当者が変わった途端に「システムトラブルが増えた」「情シスの対応が遅くなった」といった事態にならないよう、引き継ぎはしっかり行いましょう。
前任者には、「引き継ぎが多少適当でも、困るのは後任者だから……」という考えが頭をよぎることもあるかもしれません。しかし、不十分な引き継ぎは業務の停滞やトラブルにつながるため、必要な情報は漏れなく整理して伝えておきましょう。
一方、後任者も遠慮は禁物です。あとになって「こんな仕事、引き継がれてない」と困るのは自分です。分からないことや曖昧な点があれば、引き継ぎの段階で遠慮なく確認しておきましょう。

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