サイバー攻撃
ペネトレーションテストとレッドチーム演習の違いとは?定義や得られる知見、失敗しないポイントを解説
Written by T.O.
MOTEXでペネトレーションテストを立ち上げ、年間数十件のペネトレ案件を実施。CVE番号の取得など幅広く活躍するペンテスター
「ペネトレーションテスト」と「レッドチーム演習」の実施を提案された場合、どちらを選ぶべきでしょうか。
この2つは似た取り組みに見えますが、それぞれ目的や役割が異なります。
本記事では、専門家の視点から、それぞれの定義や実施することで得られる知見、選ぶ際のポイントについてわかりやすく解説します。
セキュリティ強化の取り組みとして、ペネトレーションテストやレッドチーム演習の実施を検討している企業・組織の方は、ぜひご一読ください。
はじめに
セキュリティベンダーから「まずはペネトレーションテストから始めてみませんか」「レッドチーム演習をご提案します」と言われた際に、次のような疑問を感じるケースは少なくありません。
- なにが分かり、なにが分からないのか
- 自社の課題に適しているのはどちらか
- どのような成果物が得られるのか
- 意思決定にどのように活用できるのか
結論から言えば、ペネトレーションテストとレッドチーム演習は似ているようで目的が異なるものです。
目的に合った手法を選ぶことができれば、高い投資対効果が期待できますが、前提のすり合わせが不十分なまま実施してしまうと「結果をどのように活用すればよいのか分からない」という結果になりかねません。
本記事では、このような事態に陥らないように、両者の定義から選び方までを、実務の視点から整理します。
ペネトレーションテストとレッドチーム演習の違い
まずは、レッドチーム演習とペネトレーションテストの違いについて整理します。
ペネトレーションテストは、あらかじめ決められた範囲(スコープ)の中で「技術的な弱点があるか」「侵入が成立するか」「成立するなら影響はどこまでか」を検証する取り組みです。
成果物としては、脆弱性や設定不備の指摘、再現手順、修正案、優先度付けなど、脆弱性を修正するための具体的な材料が中心になります。
そのため、新規公開やシステム更改、クラウド移行など、システムに大きな変化があるタイミングで特に効果を発揮します。
一方でレッドチーム演習は、「攻撃者が現実に近い手口で行動したときに、組織として検知・判断・対応できるか」を検証する取り組みです。
そのため、「侵入の可否そのもの」ではなく、侵入を前提とした検知体制や対応プロセス、意思決定の実力など、組織全体のセキュリティ体制を評価する点に特徴があります。
成果物も「脆弱性の一覧」ではなく、「どこで検知できたか・できなかったか」「初動が遅れた理由は何か」「運用・手順・権限・ログをどのように改善すべきか」といった改善ロードマップになることが多いのが特徴です。
| 観点 | ペネトレーションテスト | レッドチーム演習 |
|---|---|---|
| 主な目的 | ・脆弱性や設定不備を特定し、侵入可否と影響範囲を評価する | ・検知・対応・意思決定が適切に機能するかを検証する |
| 対象 | ・システムネットワーク、クラウド、ADなど | ・システムに加え、監視運用(SOC・EDR・SIEM)、手順、体制 |
| 成果物 | ・脆弱性の指摘、再現手順、修正提案、優先度 | ・検知地点、対応遅延の要因、ボトルネック、改善ロードマップ |
| 実施タイミング | ・リリース前後、システム移行直後、監査対応時など | ・SOC・EDR・SIEM導入後の効果測定、インシデントレスポンスの実効性確認 |
| 効果 | ・短期でのリスク低減 | ・組織としてのセキュリティ成熟度向上 |
定義と対象範囲
次に、ペネトレーションテストとレッドチーム演習の定義や対象範囲(スコープ)の違いについて解説します。
ペネトレーションテストの定義
ペネトレーションテストでは、WebアプリケーションやVPN配下のネットワーク、クラウド環境やActive Directoryなど、あらかじめ決められた対象に対して攻撃手法を用い、侵入の可能性や影響範囲を検証します。
実施を検討する際に重要なのは、「どこまでやるか」「やらないか」といった範囲を、契約前に明確にしておくことです。
例えば、次のような対象を設定するケースがあります。
- 外部公開しているWebアプリケーションとAPI
- VPN接続後の社内ネットワーク(想定侵入者:ID・端末を入手済みなど)
- 特定のAWS、Azure、GCPアカウント配下
- Active Directory環境における権限昇格や横展開の可能性
レッドチーム演習の定義
レッドチーム演習は、機密情報への到達や管理者権限の獲得、特定システムの操作など、攻撃者の視点でゴールを設定し、現実に近い手口で段階的に攻撃を試みる検証手法です。
評価対象になりやすい領域としては、以下が挙げられます。
- 監視(SOC、SIEM、EDR運用)
- インシデント対応手順(誰が何を判断するか)
- 連絡体制(休日・夜間を含む)
- 権限・隔離手段(封じ込めできるか)
演習を実施することで、現行のセキュリティ体制の評価ができます。
さらに継続的に実施することで、技術的な強化に加えて、組織全体のレジリエンス向上も期待できます。
実施目的と得られる知見
次に、ペネトレーションテストとレッドチーム演習を実施することで、最終的に何が明らかになるのか、またその結果を修正対応や運用改善、投資判断といった意思決定にどのようにつなげることができるのかを整理します。
どちらを実施するか迷っている企業・組織の方は、自社が求める成果がどちらで得られるのを判断する際の参考としてご活用ください。
ペネトレーションテストで得られる知見
ペネトレーションテストの価値は、「直すべき点」と「直す順番(優先順位)」を、技術的根拠とともに入手できる点にあります。
実施することで、脆弱性の内容や攻撃の成立条件、悪用された場合の影響範囲を明確にできます。
その結果、開発部門や外部ベンダーに修正を依頼しやすくなり、リリース判断やリスク受容の判断材料としても活用できます。
特に、短期間で重大な技術リスクを把握し、優先順位をつけて対処を進めたい局面で効果を発揮します。
レッドチーム演習で得られる知見
レッドチーム演習の価値は、「脅威から自社を守れていない理由」を、運用・体制・権限・ログといった観点から分解して把握できる点にあります。
例えば、「ログが取れていない」「取れていても相関できていない」「そもそも検知のルールがない」「アラートが多すぎて埋もれている」といった監視上の弱点を可視化できます。
また、脅威は検知できたとしても、必ずしも止められるとは限りません。
そのため、「誰が判断するのか」「隔離・遮断の権限は誰にあるのか」「夜間休日に連絡が回るのか」「手順書は現実の速度で動くのか」など、脅威を検知した後の対応プロセスが適切に機能するかを確認することも重要です。
こうした実際の対応における改善点が把握できる点が、ペネトレーションテストとの大きな違いであり、レッドチーム演習の大きなメリットといえます。
提案を受けた際の判断フレーム
次に、セキュリティベンダーから提案を受けた際の判断軸について、質問例とともに示します。
質問(1):いま一番困っているのは「穴」か「守り方」か?
新規公開やシステム移行直後、また改修後や監査前などのタイミングで、システムに脆弱性(穴)が存在しないか不安な場合は、ペネトレーションテストの実施が適しています。
一方で、「セキュリティ運用に不安がある」「セキュリティインシデント発生時にうまく対応できるか自信がない」という場合は、レッドチーム演習を通じて、現行の体制を評価することが推奨されます。
まずは自社が何を知りたいのかを整理した上で、最適な手法を検討しましょう。
質問(2): 欲しい成果物は「修正リスト」か「運用改善の設計図」か?
脆弱性一覧や攻撃の再現手順、修正案、優先度などを知りたい場合は、 ペネトレーションテストの実施が適しています。
一方で、実際に攻撃を受けた場合に、「どこで検知できたのか・できなかったのか」「対応にどれくらいの時間がかかったのか」「対応が遅れた理由は何か」といった点を確認したい場合は、レッドチーム演習の実施が推奨されます。
レッドチーム演習では、攻撃シナリオの実施結果をもとに、運用や体制の課題を整理し、改善のためのロードマップを得ることもできます。
失敗しない発注のポイント

最後に、ペネトレーションテストとレッドチーム演習を発注する際に、事前に確認しておきたいポイントを3つ紹介します。
- ポイント(1):ゴールを測れる形にする
- ポイント(2):スコープ(範囲)の粒度を揃える
- ポイント(3):ブルーチームの巻き込み方を検討する
これらをあらかじめ整理しておくことで、実施後の成果を具体的に評価しやすくなります。
ポイント(1):ゴールを測れる形にする
ペネトレーションテストとレッドチーム演習を実施する際は、そのゴール(成果)を計測できる形で設定することが推奨されます。
設定するゴールの例としては、次のようなものが挙げられます。
| ペネトレーションテスト | ・外部公開APIの認可を重点的に検証する ・管理者権限に到達するまでの経路を特定し、影響を評価する |
|---|---|
| レッドチーム演習 | ・脅威を検知してから30分以内に封じ込めの判断ができるかを確認する ・横展開を何段階(どのログ・ルール)で検知できるかを検証する |
ポイント(2):スコープ(範囲)の粒度を揃える
発注する際につまずきやすいポイントの一つが、検証スコープの粒度が揃っていないケースです。
例えば、「社内ネットワーク一式」や「クラウド環境全体」といった広い表現を用いると、カバー範囲が広いように見える一方で、実施側にとっては時間配分が難しくなり、結果として浅い確認の集合になってしまう可能性があります。
そのため、対象資産をどの単位で切るのか、どの前提条件で実施するのか、また業務影響を避ける制約をどのように設けるのについて、同じ粒度で整理し、事前に合意しておくことが重要です。
| 対象資産 | ・サブネット、アプリケーション、クラウドアカウント、ID基盤など |
|---|---|
| テスト手法 | ・ホワイトボックステスト、グレーボックステスト、ブラックボックステスト |
| 制約 | ・高負荷操作の禁止、実施時間帯、除外対象など |
これらを事前に整理することで、費用・期間・成果の期待値が一致しやすくなり、「実施したものの、思ったような判断材料が得られなかった」といった事態を防ぐことにつながります。
ポイント(3):ブルーチームの巻き込み方を検討する
レッドチーム演習では、守る側(ブルーチーム)が、検知・判断・対応を実際に行うことで、初めて改善点が明らかになります。
したがって、演習設計の段階で、ブルーチームをどのように巻き込むかが、成果を大きく左右します。
具体的には、次のようなポイントを事前に整理し、合意しておくことが重要です。
- 通報窓口や代替窓口
- 演習を止める判断者と停止条件
- 演習後に振り返れるだけのログの取得・保持
- 最終報告で「誰が何をいつまでに直すか」を決める進め方
これらの点が曖昧なまま進めてしまうと、現場が混乱し、改善が進まない事態が生じかねません。
まとめ
ペネトレーションテストはシステムの弱点を見つけて修正するための手段であり、レッドチーム演習は侵入された前提で組織が検知・対応・判断できるかを確かめる手段です。
そのため提案を受けた際は、「目的」や「測定指標(何ができれば成功か)」「スコープ」「成果物」の順に確認すると、施策が意思決定に使える形で終わりやすくなります。
多くの企業では、まずペネトレーションテストで重大な技術リスクを下げ、その後に運用整備を進め、レッドチーム演習で成熟度を引き上げる流れが堅実です。
重要なのは実施したことではなく、次の改善と判断に繋がる形で終えることです。

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