DAYS2のパネルディスカッションではワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏が登壇。アスキー編集部大谷イビサ氏のモデレートの元、エムオーテックスの中本琢也と「働き方の見える化」について語り合った。
「働き方の議論の前提「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」
緊急事態宣言以降、日本でも一気に企業での利用が進んだテレワーク。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡がる以前から、労働力の不足した日本では働き方改革が喫緊の課題であった。日本で働き方改革というキーワードがもてはやされる以前から、長時間労働の是正と生産性の向上を一貫して提唱してきたのが、今回登壇したワーク・ライフバランスの小室淑恵氏になる。
起業して15年、小室氏は二人のお子さんの子育てをしながら、社名通りのワーク・ライフバランスの推進に注力してきた。「長男を出産して3週間後に起業したものですから、ずっと時間制約付きの社長でした。私だけではなく、全従業員が残業ゼロ、有休消化100%を実践してきました」(小室氏)とのことで、1日8時間という決められた労働時間の中で、いかに生産性を上げるか、毎週のように議論してきた。こうした議論によって培ってきたノウハウは、やがて今まで1000社以上の働き方改革の実践に寄与することになる。
続いて、パネラーの一人として自己紹介したエムオーテックスの中本は、2004年に入社以降、長らく開発チームでプロダクトの企画や開発を手がけてきたが、2015年からは経営企画本部の本部長、2017年には自社のCSIRTを構築し、セキュリティ対策を強化し、2020年の現在は情シスチーム全体の働き方改革にチャレンジしているという。
「なぜ働き方改革は必要なのか?」 小室氏がまず説明したのはハーバード大学のデビッド・ブルーム教授が提唱した「人口ボーナス期」「人口オーナス期」という概念だ。という概念だ。
人口ボーナス期は、生産年齢の比率が高く、人口構造が経済的にプラスになる時期を指す。安い労働力が無尽蔵にあり、世界中の仕事を受注できるため、爆発的な経済成長を遂げることができる。日本の場合、この人口ボーナス期は1960年~1990年代までで高度経済成長期と一致する。人件費が安く、体力勝負の仕事が多くて、労働力があまっており、お客さまが均一なモノの大量生産を望んでいる。こういった労働市場であれば 男性ばかりが長時間労働をする同一性の高い組織がもっとも生産性が高い。
しかし、1990年代以降、日本は人口構造が負担となるいわゆる「人口オーナス期」に突入し、若者が少なくなり、高齢者が多い状態になっている。少ない人数の働き手が多くの高齢者を支える構造になるため、社会保障制度を維持することが困難になる。今の日本が置かれている人口オーナス期は労働力が足りないので、老若男女がフルに働かなければならず、育児、介護、共働きをこなすためにもなるべく短時間で成果を上げる必要がある。
しかも、大量消費の時代は終わり、顧客は高価でも価値の高いものを選択する。こうしたプロダクトやサービスを作り出すには、企業側もなるべく違う条件の人をそろえて、イノベーション指向につなげなければならないという。
「宝の山「ログ」をセキュリティではなく、働き方の可視化で使う
続いて、コロナ禍でのテレワークにおける課題がテーマ。パーソル総合研究所が実施した「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」を見ると、多くのテレワーカーは評価とコミュニケーションの不安を抱えているようだ。ここでポイントとなるのが「業務の可視化」。小室氏は、「上司が自分のことをさぼっているのではないかと思っているのではないかという不安を持っている。でも、先手を打って自ら見える化できている人は安心できる」と指摘する。これこそまさにエムオーテックスが掲げる「見せる化」だ。
LanScope CatやLanScope Anでは、どのPCで、誰が、いつ、どのくらいの時間、なにを行ったかといったログを収集できる。こうした膨大なログは今までセキュリティリスクやルール違反につながるものしか使われず、これらは全体の4%にしかすぎなかった。しかし、今まで使っていなかったこれらの操作ログを分析すれば、働き方改革やテレワークに活かすことができる。「今まで使ってこなかった96%の操作ログは働き方の改善や人の育成、見えない不安の解消などに役立てるのではないか」と中本はコメントする。
最新のLanScope Anでは収集したログから「働き過ぎていないか?」「休憩は適切か?」「(デバイスが)業務利用はできているか?」などをチェックすることが可能だ。また、チーム全体を俯瞰してみれば、チームメンバーの業務時間帯や残業を見ることができるほか、利用しているアプリケーションからやっている作業を割り出せる。もちろん、言葉だけ聞くと従業員の監視に聞こえるが、データを使ったより前向きな使い方はできないか?ということで、中本は自分のチームに向けて実際にこの可視化データを使ってみたという。
「エムオーテックスのチームでログから働き方を可視化してみた
まずは情シスリーダーとの1on1ミーティングに使ってみた。この半年間、情シスチームはコロナ禍の影響で忙しい状況が続いていたが、最近はようやく落ち着いており、サービス残業等もなく、夕方に家族との時間をとれていることもデータで確認できたという。
もう1つの使い方はZoomでデータを共有しながらチーム全員で働き方についてディスカッションすることだ。あるメンバーは「デモデータか!」と思うくらいきれいに始業・終業の時間がそろっていたため、仕事のやり方を聞いてみたら、パフォーマンスが落ちる夕方にいったん休憩をとり、残り時間で集中して仕事していることがわかったという。
データに基づいて自分自身の仕事も振り返ってみた。その結果、さまざまな役職を兼任している関係で、日中はすき間もないほど会議が詰まっており、深く考える時間がなくなっていることがわかった。一方で、18時でいったん仕事が終わり、子供が寝てから調べ物や考え事をしているのもグラフで見える化されていたという。
1on1ミーティング、チームでの共有、そして自身での振り返りという3つを試してみた中本は、「レポートを見れば解決!ではないが、『きっかけ』にはなる」と考察する。「サービス残業がない」ということがわかり、「情報はオープンにすべき」「休憩はむしろとるべき」といった価値観をチーム全員で共有できたのがよかった点だった。
一方でイベント参加者からは、「過度な見える化に弊害はないのか?」「管理の強化やプライバシーの点で社員が息苦しいと感じる面もあるのでは?」といった意見も出た。これに対して中本は、「そういう意見は理解している」と前置きしつつ、まずは管理職である中本自体が自ら見せる化を行なった上で、チームに対して試してみないかと働きかけたと自身の体験を語った。
中本の取り組みを見た小室氏は、「勤務データをもとにみなさんで率直に話し合えていましたよね。これってグッドポイント」と語る。誰かに指摘されて直すのではなく、チーム自らで発見し、ノウハウを共有するところがよいという。
今回のコロナ禍は日本社会にとって、マイナスだけなのだろうか? 小室氏は、コロナ禍で社会や企業の課題が噴出した結果、変革が後押しされるようになったと前向きに捉える。「今までのマネジメントの限界がコロナ禍で顕在化した状態。変わらなければならないことが、やっと変わるんだと思っています。今後は新しいやり方に抵抗する会社とより加速させていく会社が二分化する。なので、淘汰されない企業になってほしい」とエールを送る。
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