イベントレポート

好き嫌いの復権 with/afterコロナの仕事論

好き嫌いの復権   with/afterコロナの仕事論

書籍「ストーリーとしての競争戦略」が大ヒットした著者「一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授の楠木 建氏」の基調講演があった。
好き嫌いの復権 with/afterコロナの仕事論」と題して、「好き嫌い」という視点の重要性をもとに、with/afterコロナに向けてどのような働き方を目指していくべきなのか?について講演している。

「良し悪し」と「好き嫌い」の違いとは?

楠木氏曰く、「好き嫌い」でないものが「良し悪し」、「良し悪し」でないものが「好き嫌い」であり、どちらも人間の価値基準ではあるが、その意味合いが異なると説明している。

海に浮かぶ氷山を例に、水面に顔を出している部分は、世の中でコンセンサスが成立している普遍的な価値基準で「良し悪し」と言っている。その下には、個人や特定の組織に局所化された価値基準が存在している。このその人にとっての「良し悪し」を「好き嫌い」と言っている。

なぜ「好き嫌い」か?を競争戦略の観点から説明

では「良し悪し」と「好き嫌い」を競争戦略の観点に当てはめてみるとどうなるのだろうか。

「戦略とは、競合他社との違いをつくること」(楠木氏)

では違いとは何だろうか?楠木氏は「違いを考えるときには、OEとSPの2つのタイプに分けて考えること」と説明している。

・OE(Operational Effectiveness)
あるモノサシに従ってどちらがベターかを比較する考え方。
身長、体重、視力、年齢など。

・SP(Strategic Positioning)
モノサシがないものを比較する考え方。
性別、職業、趣味など。

「戦略とは、競合他社との違いをつくることであるので、仮にOEがベターであったとしてもそれは必ずしも戦略でない」(楠木氏)

さらに楠木氏はSP(Strategic Positioning)が重要であると説明している。

「同じ業界でも、異なるポジションをとっている。ここにそれぞれの戦略がある。例えば洋服業界においてもユニクロとZARAを比べても、どちらの洋服が良いかという話ではない」(楠木氏)

この話を冒頭に話した価値基準と重ね合わせると、OEが「良し悪し」、SPが「好き嫌い」と親和性が高いということになる。

スキルとセンスの違いについて

続いて楠木氏は、スキルとセンスの違いについて、経営者と担当者との対比で解説している。

経営者と担当者の違いを考えると、「担当者 vs 経営者 = スキル vs センス」と言い換えることができる。

「国語、算数、理科、社会などの勉強ができることをスキルがある、異性にモテることをセンスがあると言える。残念ながらモテない人は何かのスキルが無いからモテないのではなく、センスがないからモテない(笑)」(楠木氏)

スキルはモノサシがあり、示すことができるため、ギャップを知ることができる。そのため努力次第で改善が可能だが、センスは「自分のセンスが何か」が分からないため、無い人はないままで終わってしまう。

例えば、洋服のセンスがない人はずっとない、なぜなら自分にセンスがないことがそもそも分かってないからである。

「つまり、スキルは『育てられる』が、センスは『育てられない』」(楠木氏)

センスの源泉とは

ここまで説明してきて、センスの源泉は、「良し悪し」よりも「好き嫌い」からきていることは理解いただけただろう。改めてスキルとセンスの区別が大切である。

スキルはインセンティブ(昇進や報酬など)が効く。インセンティブがあれば、人は努力をし、結果的にスキルが向上する。スキルが向上すれば、さらに新しいインセンティブが出てきて、さらに努力をし、さらにスキルが向上するという好循環が起きるという。

しかし、センスはそういうものではない。自身自身の「好き嫌い」という動機から始まるものである。

なぜ「好き嫌い」が重要?個人の仕事とキャリアの観点から説明

そもそも仕事とは何だろうか?楠木氏は「仕事とは趣味ではないものと考えている」という。

「趣味は100%自分に向いた活動で、自分さえ楽しければそれで良い。ところが仕事は自分以外の誰かのためになって初めて仕事になる」(楠木氏)

趣味は好き嫌いで良いかもしれないが、仕事はやっぱり良し悪しなんじゃないかと思うかもしれないが、楠木氏は「仕事ほど好き嫌いの問題」だと考えている。

「少なくとも、努力してうまくいった仕事はただのひとつもない。努力が必要だと思った時点で、シンプルに言ってしまうと向いてないんじゃないかと思う」

こういった考えから楠木氏が辿り着いた仕事の原則が「無努力主義」という考え方である。

「起点は動因、自分の中から出てくる好きという気持ちに始まり、端から見るとすごく努力しているように見えるが、本人にとっては好きという気持ちで動いているため娯楽に等しい。

この考え方は、何よりも継続するし、当然上手になる。結果的に余人をもって代えがたい水準に到達し、成果として人の役に立つ。そうするとますます好きになるという好循環が生まれる。言い換えれば「頑張る」という表現よりも「凝る」という表現が正しい」(楠木氏)

この循環こそが「好きこそものの上手なれ」という最強の論理になり、如何にこの好循環に乗るかが仕事やキャリアの最大の鍵だと思っていると楠木氏はいう。

働き方改革を再考する

楠木氏は「好き嫌い」の重要性を語った後、働き方改革の再考について語った。

「まず、ホワイト企業とブラック企業という分類は心の底から嫌い。なぜならホワイトは良いことで、ブラックは悪いこと、つまり「良し悪し」基準に基づいた話になっている」(楠木氏)

例えばファーストリテイリングの店長が激務で問題になったと話題になったり、官僚の方々は非常に激務だと言われている。でもそういう仕事だということ。

そういうことを生きがいとして仕事をしたいと思って集まってきている人もいる。

つまり、ホワイトとブラックのどちらかという良し悪しで企業を分けるのではなく、ピンク企業、ブルー企業と呼べば良いのではないか。「ブラックかホワイトかの2色ではなく、いろんな色の企業が存在しているということ」だと楠木氏は説明した。

自分の好きなカラーを選べば良く、会社も自分たちのカラーをはっきりさせることが、本来の姿だとした。

好きな仕事に負けはない

「明日から巨人ファンになれと言われても無理なように、好きは命令することができない。また、好きを買うこともできない」(楠木氏)

カネを出しても買えないモノほど大切であり、それが結局はいちばんカネになるということ。

例えば「多様性を高めなければならない」という話しも、前提において間違っている。そもそも一様だという前提のもと、そこに多様性をぶち込まないとイケないという考えに基づいている。本当にそうだろうか?そもそもみんな好き嫌いが違うので、そこに多様性はあるのではないか。「ダイバーシティ」よりも「好き嫌いインクルージョン」を進めれば話が早いのではないかと楠木氏はいう。

良し悪し vs 好き嫌い

続けて「良し悪し vs 好き嫌い」という対立が目立ってきたと楠木氏はいう。

最近は良し悪し族がデカい面をしすぎていて、なんでもこれが良い、これがダメというのが過剰になってきていると説明した。

当然良し悪しで言えることもたくさんあり、コロナ対策としてマスクをしましょうという話しは良し悪しの話であるが、本来は好き嫌いの話なのに、無理矢理良し悪しに持っていこうとしていることが多い。例えば「これからはリモートワーク。通勤は無駄」「いや、リアルは大切」などといった言い争いが多いが、楠木氏曰く「はっきりいってどっちでも良いし、好きにしろ(笑)」とのことだ。

無理矢理コンセンサスを形成する必要はなく、それぞれが好きな方を選択すれば良いのではないかと説明した。

「人間についての理解が表面的な世の中になっていて、良し悪し族がデカい面になっているが、もっと人と人の世の中について本質を考えたい。」と楠木氏はいう。

どうやったら本質をつかめるかについては、「近過去を見る」だという。

「例えば昔の新聞や雑誌を見てみると、多くのことが歴史の中で変わっていくが、変わっていくものを追いかけると、何がそのなかでも変わっていないかが見えてくる。こうした本質にアプローチする方法として、近過去に立ち戻ってみることを提唱している」と締めくくった。

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