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【MOTEX2020新製品プレリリースイベント】経済・DX・ニューノーマル 今、企業が取るべき対策とは

Written by 高橋 睦美

一橋大学社会学部卒。1995年、ソフトバンク(株)出版事業部(現:SBクリエイティブ)に入社。以来インターネット/ネットワーク関連誌にてネットワーク・セキュリティ関連記事の編集を担当。2001年にソフトバンク・ジーディーネット株式会社(現:アイティメディア)に転籍し、ITmediaエンタープライズ、@ITといったオンライン媒体で10年以上に渡りセキュリティ関連記事の取材、執筆ならびに編集に従事。2014年8月に退職しフリーランスに。

【MOTEX2020新製品プレリリースイベント】経済・DX・ニューノーマル 今、企業が取るべき対策とは

4月に出された「緊急事態宣言」を踏まえてテレワークを導入する企業が増えるなど、新型コロナウイルス以降、企業も従業員の働き方も大きく変化し、否応なしに「働き方改革」に直面することになった。この先の見通しも不透明な中、われわれはどのようにこの変化に向き合い、困難な時代を乗り越えていくべきだろうか。エムオーテックスが2020年9月4日に開催したオンラインイベント「経済・DX・ニューノーマル 今、企業が取るべき対策とは」の基調講演・パネルディスカッションから、そのヒントを探っていこう。

働き方の「見える化」から「見せる化」へのシフトを

セミナー冒頭に挨拶に立ったエムオーテックスの代表取締役社長、河之口達也氏は、新型コロナウイルス対策として急速にテレワーク体制へのシフトが進み、働き方が大きく変化していることに触れた。この変化にはワークライフバランスの面で利点もあるが、「コロナウィルスは目に見えない。テレワークはお互いが見えない。人間は見えないものに非常に弱いことが露呈している」と河之口氏は言う。これまで同じオフィスで互いに見える距離にいた上司と部下、チームメンバーの間で、どのように仕事の改善や評価を進めるべきであろうか?

河之口氏は、パソコンのログだけを元に誰が何時間働いたかを「見える化」するというのは今までの感覚で働く人達の納得感は得にくいであろう。しかし、見えないところでも集中して仕事をしている人は監視されるという受け身の発想にはならず、むしろログを主体的に活用する「見せる化」という発想に移り変わっていくのではないかと呼びかけた。

「会社や上司が監視するのではなく、自ら仕事の生産性を分析し、効率化するためのデータとしてログを活用するーーそんな風にポジティブなスタイルが定着していけば、家族の時間を大切にしながら効率的に頑張っている人を支援できるのではないか」今はまだ過渡期であるが、ニューノーマル時代を乗り越えていくためのヒントを続く基調講演やパネルティスカッションから得て欲しいと呼びかけた。

仕事の成果を時間だけで測らず、生産性とクリエイティビティの向上を

続けて、経済産業省でさまざまな構造改革の立案・実行に携わり、今は慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科で教授を務める岸博幸氏が、「激動の2020年、企業が取るべき選択肢とは?」と題して基調講演を行った。

岸氏は、コロナ禍によって社会は大きく変わると予測した。第一の変化は「デジタル化」だ。テレワークはもちろん、遠隔教育、遠隔医療が半ば強制的に進んだ。「日本は先進国の中でデジタル化、第四次産業革命への対応が非常に遅れていました。そんな中でコロナが発生し、結果的にデジタル化が進み、今後も進めていかなければならないと意識されるようになっています」(岸氏)

2つ目の変化はグローバル化だ。新型コロナによって人やモノの流れという面では後退が見られるかもしれないが、デジタル化の延長である「情報のグローバル化」はさらに進展するだろうと予測した。

そして、デジタル化とグローバル化の帰結として「格差の拡大」が生じる。同時に、コロナという人の生き死にへ繋がる問題に直面した経験を踏まえ、あらためて「環境問題」や「社会問題」に対する意識が高まるだろうと岸氏は述べた。そして、「ディスタンス」という価値観が浮上し、満員の通勤電車に揺られて都心のオフィスに通勤することが当たり前という、ディスタンスの対極にあった日本の意識が大きく変わり、ひいてはさまざまな価値観の変容につながる可能性があるとした。

残念ながら新型コロナの影響は当面継続することになるだろう。以前からの構造的な問題も相まって、ウィズコロナ、アフターコロナの日本経済はかなり厳しい見通しにならざるを得ない。だが、だからといって、「少なくとも私たち個人や企業、地域経済のレベルでは悲観する必要はないと思います」と岸氏は述べ、個人や企業、産業、地域経済といったレベルで生産性を上げることで、それぞれの状況を打開できるとした。

岸氏は、コロナというかつてないほど大きな変革期だからこそ企業が取り組むべきことは、2つに集約できるという。1つは、デジタル化、デジタルトランスフォーメーション(DX)を駆使して生産性を向上させることだ。もう1つはイノベーションの創出で、「危機の時ほどディスラプティブ(破壊的)なプロダクトやサービスが生まれます。こういうタイミングだからこそ、コロナというピンチをチャンスに変える意気込みで、生産性の向上やイノベーションの創出に注力すべきです」と呼びかけた。

では、イノベーションの創出には何が必要だろうか。
イノベーションとは突き詰めれば「新しいコンビネーションを作り出すこと」であり、一般に思われているほどハードルは高くない。ただそれには、個人の生産性と、イノベーションの源泉となるクリエイティビティ、その双方を向上させる必要がある。問題は、それを「テレワーク」というやや特殊な環境でどう実現していくかだ。

岸氏は、この観点で取り沙汰される議論にやや違和感を感じているという。「テレワークで生産性を上げるため、企業は個人がしっかり働いているかどうかを監視しがちです。だが、そうやって時間管理をするだけで本当に生産性が上がるかというと、僕は違うと思います」(岸氏)

そもそも、イノベーションにつながるような仕事は時間と集中のかけ算から生まれる。そして仕事には、集中して新たな価値やクリエイティブなアイデアを生み出す「ディープワーク(deep work)」と、いろいろな下調べや調整、メールのやりとりなど、それほど集中しなくてもマルチタスクでできる「シャローワーク(shallow work)」の2種類があり、仕事にはその両方をうまく組み合わせることが不可欠だ。

ただ、パソコンやスマートフォンを使いこなし、マルチタスクが当たり前という今の働き方の中では、ディープワークに不可欠な集中を持続していくのは難しいと岸氏は説明した。本当に集中してディープワークに取り組むならば、ネットもスマホも遮断して、自分一人で脳を振り絞って考えなければならない。その分、長時間続けるのは難しく、せいぜい一日3時間も保てばいいほうだ。

岸氏は、「メールが届いたので一回やっていた仕事を中断し、別の仕事を済ませてまた同じような集中に戻るには23分も時間を要する」という米国の調査結果を例に挙げ、「デジタル環境は非常に便利だし、使いこなす必要がありますが、同時に人間の集中力を下げることもあります。その意味で、仕事の成果は時間だけで測ることはできず、集中の度合いも必要です」と述べた。

「自宅でネット接続も携帯も遮断してディープワークに専念した場合、それを『仕事をさぼっている』と怒るのは違うでしょう。こう考えていくと、『どれだけ働いたか』を時間だけで管理するのは無理があります」(岸氏)。まだ正解は見えていないが、少なくとも時間だけをモノサシにしてがちがちに管理したりせず、ディープワークを促し、生産性とクリエイティビティを高めていくアプローチを、試行錯誤しながら見出していくことが企業には求められるとし、それが本当の意味での働き方改革ではないかと講演を締めくくった。

働き方が変わる中、目標や職務の明確化が必須に

続けて岸氏、河之口氏に加え、大手外資系企業で人事部門責任者を歴任し、人事コンサルテーションを行っているオリビアアソシエイツの代表、小野 美也子氏も加え、「日本のIoTを変える99人」に選出された武下 真典氏をモデレーターに迎えて、これからの働き方、評価の仕方について率直な意見が交わされた。
武下氏はまず、新型コロナが働き方にどのような影響を与えたかを再確認した。


以前から叫ばれてきた「働き方改革」は、残業抑止の文脈で語られることが多かった。岸氏も「政府の本当の狙いは経済の生産性を高めることであり、そのためには働いた時間に応じて賃金を支払うのではなく、成果に比例した賃金であるべきだというものでした。それがどちらかというと残業時間の規制が優先され、むしろ休み方改革になっていました」と述べた。

それが新型コロナの影響で否応なしに変わりつつある。小野氏はこのピンチをチャンスに変えていくヒントとして「やはり、時間管理からどう脱却していくかがキーでしょう。そのためには成果主義的な人事制度が求められるが、たとえ制度がなくても、今の就業規則のままでもできることはあるはず」と、今の環境下でも変化は十分に可能だとした。


2つ目のテーマは「ジョブ型雇用にどう取り組み、意識改革を進めていくべきか」だ。
日本型のメンバーシップ型雇用と対比して取り上げられるこのキーワードについて小野氏は、「新卒で一斉に採用し、終身雇用するのがメンバーシップ型です。これに対しジョブ型はポジションごと、職務ごとに必要なスキルを持った人を採用していく形となります」と説明した。

そして「どちらにも一長一短があります。大きな違いは退職率で、メンバーシップ型は2~3%という低い率ですが、ジョブ型ではどうしても10%前後になります。従って、その人がやめた後、どんな職責をどんなスキルを持った人でリプレースしていくのかを考え、職務を明確にしていくのがジョブ型のポイントです」とした。

果たして今後、ジョブ型雇用※図1が日本に定着するだろうかという武下氏の問いかけに対し、岸氏は「社会全体がジョブ型ではない形に適応している上、現場の力が優れているという日本企業の強みを考えても、現実にはかなり時間がかかるのではないでしょうか」とした。小野氏も、「一気にジョブ型に変えていこうとするとかなりのパワーが必要になります」と述べた上で、「コロナ禍の中、明日からでも生産性を上げなければいけない局面においては、それほどリソースやパワーをかけなくても、マインドセット次第でできることはたくさんあります」と言う。

図1

新型コロナの影響もあって雇用形態が変化する中、従業員ができることは何だろうか。岸氏は「抽象的な言葉になりますが、仕事に必要なスキルを会社任せにしないで、自分で自分に必要なスキルをアップしていくことが一番大事ではないでしょうか」とコメントした。

テレワークで従業員も上司も不安? 解決の鍵は

3つ目のテーマは、テレワークが広がり、ジョブ型への移行が進む中で多くの従業員が、そして評価をする側の上司が不安を抱いている評価とコミュニケーションのあり方についてだ。「今までは黙って仕事をしていても評価されたかもしれませんが、テレワークが進むと、これまでのように評価されないこともあり得ます。自分の持っているスキルや経験、会社への貢献をどのように表していくかを変えていく必要があるでしょう」と武下氏は問題提起した。

河之口氏は、岸氏の基調講演の内容を踏まえ、「これまでいかに、割り込みばかりで効率の悪い仕事の仕方を何となくやってきたかが明らかになってきました。見かけだけ働いていればいい時代ではなくなり、個人が力をしっかり付け、かつアピールしなければならない時代になるでしょう」と述べた。

図2

テレワーカー1,000人を対象にしたパーソル総合研究所の調査結果※図2によると、テレワークの広がりに伴い、「上司や同僚に仕事をさぼっていないかと思われるのが不安だ」と感じる従業員が38.4%、「非対面のコミュニケーションに不安を感じている」従業員が39.5%に上ったという。上司側に同様に尋ねてみたところ、「部下が仕事をさぼっているのではないかと思うことがある」という回答が40%、「公正・公平に評価する自信がない」という回答も39.4%に上った。※図3

図3

岸氏はこの調査結果に対し、「不安になるのは当然ですが、上司もテレワーカーも評価に対する不安を抱いているのは、逆にこれまでいかにサボっていたか、いかに生産性が低かったかの裏返しかもしれません」と指摘し、仕事に対する達成目標をしっかり持ち、その目標に対して充実した仕事ができたかを自分自身で判断できるようになることが大事だとした。

小野氏も「公正・公平に評価ができるか自信がないというのは、いかに目標設定がなされていないかの裏返しだと感じます。何がミッションであり、何をやるのがあなたの責任かが分かっていれば、自ずと不安はなくなるはずです」とし、暗黙の了解に頼らず、目標設定をきちんとすることが重要だと強調した。

最近ではテレワークでコミュニケーションが取れないのが不安だからと1対1のミーティングを増やす動きもあるが、やみくもにやっても負担が増えるだけだ。それよりも「何を目的にするか」「何を目標にするか」をクリアにして共有する方が重要であり、それは明日からでもできるし、ひいては時間管理からの脱却につながるだろうとした。

ここで河之口氏は、2020年10月にバージョンアップするクラウドサービス「LanScope An」について紹介した。元々、MOTEXのIT資産管理ツールは、PCのログを収集し、誰がいつ、どのくらい、何をしたかといった事柄を収集し、その中からマルウェア感染などのセキュリティ的に問題があるイベントを警告するために使われてきた。しかし「今までセキュリティのために使われてきたログは全体のごく一部でした」(河之口氏)。その大多数のログを解析し、働き方を「見せる」ために活用するのが新しいLanScope Anだ。※図4

図4

バージョンアップしたLanScope An では、部門ごとに働き方の現状をサマリーし、レポートするほか、ドリルダウンして個人の働き方も把握できる。「働き過ぎがないか」「適切な休憩が取れているか」、またアプリケーションの利用分析を元に効率的に働けているかといった事柄が見えてくるが、大事なことはその先にあると河之口氏は述べた。

「例えばサッカーの世界ではシュートパターンをはじめあらゆるプレイをデータ化し、分析することで改善点を見つけています。※図5 LanScope An は、働き方の記録を元にさまざまな分析と改善を行うためのツールですが、大切なのはそのデータを見て行うコミュニケーションです。真面目に働いている社員にとっては、監視されているのではなく、むしろ大切に守られているという安心につながるはずです」(河之口氏)。データを見ながら議論することで、チーム内の仕事の改善に繋がり、将来はディープワークに集中する時間を認めるなど、科学的に働く取り組みに繋げることなどに活用してもらうことが狙いだ。※図6・7

図5
河之口氏は元々LanScope Anはテレワーク向けに作られたツールではないが、今後数年がかりで定着していく新しい働き方の中で、生産性向上の用途で活用できるのではないかと説明し、ひいては、安全性と生産性を両立させる「Secure Productivity」というエムオーテックスのミッション実現につながるとした。

図6

図7
岸氏は「ぎちぎちに監視されてもモチベーションが下がるだけです。モチベーションを上げていくには、適切な目標設定をした上でコミュニケーションを取ることが大切ですが、そのベースになるのではないでしょうか」とLanScope An を評価した。小野氏も、「ここまでエビデンス、データが取れていれば、性善説に立って、従業員の申告を信じるスタンスで管理ができるようになる素晴らしいチャンスだと言えるでしょう」という。

オンラインで聴講していた参加者からは、「成果主義になるとドライに評価することになり、テレワークでうまく成果を出せない人を守れなくなるのでは」、あるいは「アピールだけうまい社員が生き残るのはおかしいのでは」といった、質問とも悩みとも取れるコメントが寄せられた。

これらの声に対しポイントは、やはり「目標設定」だと岸氏は言う。ただ、あまりに目標にとらわれすぎても間違える可能性があることを頭に入れ、評価の尺度をある程度柔軟にしていくことも大切だとした。また小野氏は、ドライな評価というよりもむしろ正当かつ適切な評価を通して、その人が持つさまざまなポテンシャルを引き出していくことが重要だとした。

河之口氏は、「今まで通りの働き方はできない中で、今までのようなアピールや見た目の印象での評価も難しくなる。逆に、見えないところで本当に頑張って、工夫しながら成果を出す社員が正当に評価されるようになるような社会に向かうことを期待しています」と述べた。そして、チームでデータを共有して、コミュニケーションを取りながら生産性向上のために何が大事かを議論していくツールとして新しいLanScope An を活用してほしいとした。