IT資産管理
IdPとは?SAML認証での役割や実現すること、SPとの違いを解説
Written by WizLANSCOPE編集部
目 次
「IdP(Identity Provider)」とは、ユーザーの認証情報を管理し、必要に応じて他のサービスへその認証情報の提供を行う仕組み・サービスのことです。
業務に使うシステムの多くが「クラウドサービス」に置き換わっている昨今、管理しなければいけないID・パスワードの増加が問題となっています。
こうした課題の解決に役立つのが、IDやパスワードを一元管理できる「IdP」です。
本記事では、IdPの概要や必要性、注意点などを解説します。
▼本記事でわかること
- IdPの概要
- IdPが求められている背景
- IdPで実現できること
- IdPの注意点
IdPの利用を検討されている方はぜひご一読ください。
IdPとは

「IdP(アイディーピー)」とは「Identity Provider(アイデンティティ・プロバイダ)」の略で、ユーザーの認証情報を管理し、他のサービスへその認証情報を安全に提供するための仕組み・サービスです。
インターネット上のサービスを利用する際に、「この利用者が本当にこのアカウントの持ち主なのか」を確認し、安全にログインできるようにするのがIdPの役割です。
企業・組織でIdPを導入すると、従業員の名前・メールアドレス・所属部署・パスワードなどのアカウント情報を一元管理できるようになります。
IdPを導入することで、ユーザーの認証情報を一元管理し、クラウドサービスとの間で安全に認証を行えるようになり、その結果、セキュリティを強化しつつ、業務を効率的に進められるようになるでしょう。
IdPが求められている背景

近年、IdPが求められるようになった背景として以下が考えられます。
- クラウドサービスの利用拡大
- 働き方の変化
- セキュリティ意識の高まり
それぞれ確認していきましょう。
クラウドサービスの利用拡大
従来、社内のシステムやファイルサーバーなどは、社内ネットワークの中だけで動作するのが一般的でした。
しかし現在では、メールや会計、勤怠、顧客管理、チャットなど、多くの業務システムが「クラウドサービス」へと移行しています。
利用するクラウドサービスが増えるほど、管理しなければいけないID・パスワードは増えてしまうため、運用の負担やセキュリティリスクも大きくなります。
こうした課題を解決するのがIdPです。
IdPを活用すれば、IDやパスワードを一元管理できるようになり、個々のサービスごとにID・パスワードを管理する必要がなくなります。
さらに、シングルサインオン(SSO)と組み合わせることで、システム・サービスにログインするたびにIDやパスワードを入力する手間もなくなるため、利便性の向上も期待できます。
働き方の変化
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、「リモートワーク」や「ハイブリッドワーク」といった働き方を採用する企業が増え、従業員がオフィス以外の場所から社内システムにアクセスする機会が急増しました。
これにより、従業員がどこからアクセスしても、確実に本人確認を行える仕組みを整えることが急務の課題となっています。
IdPを導入すれば、オフィスでも自宅でも、同じアカウントを使って安全に認証し、クラウド上の業務ツールへアクセスできるようになります。
さらに、条件付きアクセスや多要素認証(MFA)と組み合わせることで、「不審なデバイスや接続元からのアクセスをブロックする」といった高度なセキュリティ対策も可能です。
セキュリティ意識の高まり
サイバー攻撃や情報漏洩事件が増加する中で、「誰が・どのデバイスから・どのサービスにアクセスしているか」を正確に把握し、不正アクセスを防ぐことは、企業にとって極めて重要な課題となっています。
このような背景から、IdPを利用して認証情報を集中管理し、強固な認証ポリシーを全社で統一的に運用する取り組みが広がっています。
さらに、ゼロトラストセキュリティの普及も、IdPの重要性を高める要因の一つです。
ゼロトラストでは、アクセスのたびに本人確認を行う仕組みが必要となり、その中心的な役割を担うのがIdPです。
SAML認証におけるIdPの役割

SAML(サムル)認証とは、SAMLに対応した複数のサービスにおいて、一度のログインでまとめてログインできる仕組みのことです。
シングルサインオンを実現させるための代表的な技術として、広く利用されています。
SAML認証を用いたシングルサインオンでは、例えば会社のポータルサイトに一度ログインするだけで、メール、チャット、勤怠管理など、複数のクラウドサービスに自動でアクセスできるようになります。
SAML認証は、ユーザー、SP(サービスプロバイダ)、IdPの三者で認証情報をやり取りしながら動作します。
この仕組みの中でIdPは、ユーザーのログインを受けて、その認証情報をSP(ユーザーが利用するサービス)に渡す役割を担います。
この仕組みにより、サービスごとにパスワードを入力する必要がなくなるため、業務効率の向上が期待できます。
さらに、サービスごとにパスワードを管理・記憶する必要がなくなることで、パスワードの使いまわしや脆弱なパスワードの設定を回避することができ、セキュリティリスクの低減にもつながります。
ただし、すべてのクラウドサービス・システムがSAML認証に対応しているわけではないため、非対応のサービスについて別の方法で連携を行う必要があります。
また、IdPがダウンした場合、連携しているすべてのサービスにログインできなくなる可能性がある点にも注意が必要です。
IdPとSPの違い

前述の通り、SAML認証では、ユーザー、SP(ユーザーが利用するサービス)、IdPの三者間で認証情報をやり取りしながら、ログイン処理を行います。
この仕組みでは、IdPは利用者のログインを受けてその認証情報をSPに渡し、SPはその認証情報をもとに、ユーザーをログインさせます。
つまり、IdPは「認証の提供者」であり、SPは「サービス提供者」という違いがあります。
なおSAML認証には、「SP-initiated」と「IdP-initiated」の2つの処理フローがあります。
SP-initiated
SP-initiatedは、ユーザーが最初にSPにアクセスすることで、認証が始まる方式です。
ログインまでの流れは以下の通りです。
- ユーザーがSPにアクセスする
- SPがSAML認証要求をIdPに送信する
- ユーザーがIdPのログイン画面でID・パスワードを入力する
- 認証に成功すると、IdPがSAML認証応答を発行する
- ユーザーがその認証応答をSPに送信する
- SPが認証応答を受け取ると、ユーザーのログインが完了する
IdP-initiated
IdP-initiatedは、ユーザーが最初にIdPにアクセスし、そこから利用したいサービス(SP)に移動する方式です。
ログインまでの流れは以下の通りです。
- ユーザーがIdPにアクセスする
- IdPの認証画面で、ID・パスワードを入力する
- 認証に成功すると、SPを選択する画面が表示される
- IdPがSAML認証応答を発行する
- IdPから受け取ったSAML認証応答をユーザーがSPに送信する
- SPが認証応答を受け取ると、ログインが完了する
IdPが実現する仕組み

IdPの仕組みを活用することで、以下の認証方式や運用を実現できます。
- シングルサインオン(SSO)
- 多要素認証(MFA)
- ユーザー情報の一元管理
詳しく確認していきましょう。
シングルサインオン(SSO)
シングルサインオン(Single Sign-On、SSO)とは、一度ログインするだけで、複数のシステムやクラウドサービスに自動的にアクセスできる仕組みです。
この仕組みを実現する際に用いられるのがIdPです。
IdPがユーザーの認証を一元的に行い、その結果をシステムやサービス(SP)に送ることで、ユーザーはサービスごとにIDやパスワードを入力する必要がなくなります。
シングルサインオンを活用することで、ユーザーは複数のIDやパスワードを覚える必要がなくなり、ログインにかかる手間を大幅に削減できます。
また、企業側にとっても、パスワード忘れによる問い合わせ対応や、アカウント管理の負担を軽減できるというメリットがあります。
多要素認証(MFA)
多要素認証(Multi-Factor Authentication、MFA)とは、ユーザーの身元確認を強化するために、「知識情報」「所持情報」「生体情報」のうち、2つ以上の要素を組み合わせるセキュリティ手法です。
| 知識情報 | パスワードなどの特定のユーザーのみが知っている情報 |
|---|---|
| 所持情報 | スマートフォンやICカードなど利用者本人が所持している情報 |
| 生体情報 | 指紋や静脈、顔、虹彩など、本人固有の身体情報 |
多要素認証を導入することで、仮にパスワードが漏洩したとしても、第三者が不正にログインすることは難しくなり、セキュリティを大幅に強化できます。
さらにIdPを利用すると、多要素認証をシステム全体に一括で適用できるというメリットがあります。
サービスごとに個別設定を行う必要がなくなるため、組織全体で統一された安全なログイン環境を構築できます。
ユーザー情報の一元管理
IdPでは、ユーザーのアカウント情報を一か所で集中管理できます。
例えば、所属部署や役職、利用中のサービス権限などを統合的に管理できるため、従業員の入社・異動・退職時におけるアカウント発行や削除をスムーズに行えるようになります。
これにより、権限を失ったユーザーの削除漏れといったセキュリティリスクを大幅に減らすことができます。
また、誰がどのサービスにアクセスできるかを一覧で確認できるため、アクセス制御の透明性が高まり、監査対応も効率化できます。
IdP利用における課題・注意点
IdPを利用する際の課題・注意点として、障害や攻撃によるリスクが大きいことが挙げられます。
例えば、システム障害によりIdPが停止してしまうと、連携しているすべてのサービスやシステムにアクセスできなくなる恐れがあります。
障害の規模によっては復旧までに時間がかかることもあり、その間、業務が長時間停止してしまうことも懸念されます。
また、認証情報を一元管理しているIdPが攻撃者に狙われた場合、認証情報が漏洩するだけでなく、連携しているサービスへの不正アクセスにつながる危険性があります。
このようなリスクに備えるためには、冗長化構成やバックアップによる障害対策に加え、IdPそのものへのセキュリティ対策を強化することが重要です。
まとめ
本記事では「IdP」をテーマに、その概要や必要性、注意点などを解説しました。
本記事のまとめ
- IdPとは、ユーザーの認証情報を管理し、他のサービスへその認証情報の提供を行う仕組み・サービス
- IdPの必要性が高まっている背景として、「クラウドサービスの利用拡大」「働き方の変化」「セキュリティ意識の高まり」などが挙げられる
- SAML認証においてIdPは、ユーザーのログインを受けて、その認証情報をSPに渡す中心的な役割を担っている
- IdPを活用することで、「シングルサインオン」「多要素認証」「ユーザー情報の一元管理」などの認証方式・運用が実現できる
- IdPを利用する際は、障害や攻撃に備えて、冗長化構成やバックアップの実施、IdPそのものへのセキュリティ対策を強化することが重要
IdPを活用することで、ログイン時の手間が削減され、利便性が向上できるだけでなく、シングルサインオンや多要素認証を通じてセキュリティ強化も期待できます。
ただし、IdPには障害や攻撃によるリスクが大きいという懸念点もあるため、導入する際は、IdPへのセキュリティ対策の強化や冗長化、バックアップの確保といった継続的な運用対策を欠かさずに行うようにしましょう。
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