IT資産管理
SCIMとは?仕組みやメリット、SAMLとの違いをわかりやすく解説
Written by WizLANSCOPE編集部
目 次
SCIMとは、ID情報を自動的に連携・管理するためのプロトコルです。
SCIMを利用することで、ID情報を手動で同期する必要がなくなり、退職者のアカウント削除漏れといったセキュリティリスクを防ぐことができます。
本記事では、SCIMの仕組みやメリット、SAMLとの違いなどを解説します。
▼本記事でわかること
- SCIMの概要
- SCIMの仕組み
- SCIMとSAMLの違い
- SCIMのメリット・デメリット
「SCIMとは何か」「SCIMの活用でどのようなメリットが得られるのか」などを知りたい方はぜひご一読ください。
SCIMとは

SCIM(System for Cross-domain Identity Management、スキム)とは、異なるシステム間でユーザーアカウント情報を効率よく連携するための仕組みです。
SCIMを活用することで、サービスごとにIDを手動で登録・更新・削除する必要がなくなり、作業負担の軽減やセキュリティ強化が期待できます。
例えば、新入社員が入社した際に一度ユーザー情報を登録することで、SCIMに対応した複数のクラウドサービスへ自動的にアカウントが反映されます。
退職時も同様に、アカウント削除が各サービスへ自動連動するため、アカウントの削除漏れといったセキュリティリスクを防ぐことができます。
従来の手作業による管理では、入力ミスや設定漏れなどの人為的なエラー発生しがちでしたが、SCIMを導入することで、こうしたリスクを大幅に削減できます。
SCIMに対応しているクラウドサービス
SCIMに対応している代表的なクラウドサービスとしては、以下が挙げられます。
- Salesforce
- Google Workspace
- SAP
- Microsoft Entra ID / Microsoft 365
- Slack
SAMLと比較すると普及率はまだ高くありませんが、クラウド利用の拡大とともに、今後さらに普及していくことが予想されます。
SCIMへの注目が高まっている理由

近年、SCIMが注目を集めている背景としては、以下が挙げられます。
- クラウドサービス利用の増加
- リモートワークの増加
- セキュリティ意識の高まり
詳しく解説します。
クラウドサービス利用の増加
ITサービスの発展やテレワークの拡大により、近年、企業活動においてクラウド型のビジネスツールが広く使われるようになりました。
その結果、一つの組織が複数のSaaSを併用することも珍しくありません。
しかし、利用するサービスが増えるほど、管理すべきID・パスワードの数も増え、アカウント管理は一段と複雑になります。
さらに、各システムで個別にユーザー登録や権限設定を行う方法では、時間がかかるだけでなく、設定ミスや作業漏れなどが発生しやすくなります。
こうした課題を解決する方法として、ユーザー管理を統合・自動化できるSCIMの仕組みが求められるようになりました。
リモートワークの増加
テレワークやリモートワークといった新しい働き方が拡大し、働く場所が多様化する中で、オフィス以外で業務を行うスタイルが定着しつつあります。
この変化に伴い、社内システムだけでなく、外部のクラウドサービスにアクセスする機会も増えています。
しかし、自宅やカフェなど、社外のさまざまな場所から、業務で利用するクラウドサービスへアクセスするようになると、誰がどのサービスを利用しているのかが把握しづらくなり、セキュリティリスクは増大します。
このような状況から、社内外を問わず、すべてのIDを一元的に管理できる仕組みが求められるようになりました。
この仕組みを持つのがSCIMであり、場所を問わずにユーザー管理を自動化・統合できる仕組みとして、必要性が高まっています。
セキュリティ意識の高まり
近年、サイバー攻撃の件数は増加し、その手法も高度化・巧妙化しています。
このような状況から、企業・組織にはこれまで以上に厳格なセキュリティ対策が求められています。
特に、不要なアカウントが放置されることは重大なリスクになり得ます。
例えば、退職者のアカウントを削除し忘れた場合、そこから不正侵入される危険性があります。
また、権限の設定を誤ると、本来アクセスできない機密情報が第三者に閲覧される恐れもあります。
こうした情報漏洩リスクを低減する手段として、SCIMの利用が有効です。
SCIMを活用することで、アカウント情報を一元的に管理でき、不要なアカウントの放置を防止できます。
さらに、異動や組織変更の際にも、自動的かつ迅速にアカウント情報を更新できるため、常に最新で安全な状態でユーザー管理を維持することが可能になります。
SCIMの仕組み

SCIMは、IdP(Identity Provider)とSP(Service Provider)の間でユーザー情報を自動的に連携するための仕組みです。
どのように機能しているのか、基本的な構造と通信方式について解説します。
SCIMの基本構造
SCIMは、「IdP」と「SP」の間でユーザー情報を受け渡すための仕組みです。
それぞれ以下の役割を担っています。
| IdP | ・ユーザーの認証情報や属性情報を一元管理し、他のサービスへ提供を行うシステム 例:Microsoft Entra ID |
|---|---|
| SP | ・ユーザーが実際に利用するサービスやアプリケーション 例:Slack、Google Workspace |
IdPは、SCIM APIを通じてSPにユーザー情報を送信し、SPは受け取った情報に基づいて、ユーザー情報の登録・更新・削除などの処理を自動で行います。
このやり取りにはJSON形式のデータが用いられるため、軽量で、処理が高速という特徴があります。
例えば、IdP側で新しい社員を追加すると、「Slack」や「Google Workspace」などの複数のサービスにユーザー情報が自動的に反映されます。
これにより、登録作業の重複や削除漏れが防げるだけでなく、セキュリティリスクの低減にもつながります。
SCIMの通信形式
SCIMはHTTPをベースとした通信方式を採用しており、一般的な企業ネットワークでも手軽に利用できる特徴があります。
データの送受信には「HTTPS」が使われるため、通信経路の暗号化が行われ、安全に認証情報を扱うことが可能です。
さらに、JSON形式を用いることで、データの互換性と扱いやすさも両立されています。
JSONは、軽量かつ多くのプログラミング言語でサポートされているため、開発者が独自の環境を構築する際にも柔軟に対応できます。
こうした仕組みにより、SCIMは高いセキュリティ性と拡張性を兼ね備えた通信を実現しています。
SCIMとSAMLの違い

SCIMとSAMLはどちらもID管理に関わる仕組みですが、目的と役割が異なります。
SAMLは、一度の認証で複数サービスを利用できる「シングルサインオン(SSO)」を実現するためのフェデレーションプロトコルです。
ユーザーが、IdPで認証を行うことで、SPである各サービスやアプリケーションに再度ログインすることなく、アクセスできるようにする仕組みです。
一方でSCIMは、ユーザー情報をサービス間で自動的に作成・更新・削除するためのIDプロビジョニングプロトコルです。
認証情報そのものを同期し、複数サービスに正しいユーザー属性を反映する役割を担います。
SAMLが「認証・認可の仕組み」であるのに対し、SCIMは「認証情報の自動連携の仕組み」といえます。
また、データ形式にも違いがあり、SAMLがXML形式を用いるのに対し、SCIMはより軽量なJSON形式を採用しています。
クラウドサービスの利用が拡大している昨今、仕組みの簡潔さと拡張性から、SCIMを採用する企業が増加傾向にあります。
SCIMの関連用語

SCIMの正しい理解には、関連する技術用語の知識が欠かせません。
ほとんどがすでに本記事に出てきている用語ですが、ここでは6つの用語について解説します。
- アイデンティティ管理
- プロビジョニング
- デプロビジョニング
- IdP
- SP
- シングルサインオン
確認していきましょう。
1. アイデンティティ管理(Identity Management)
アイデンティティ管理とは、組織に所属する人々のデジタル上の身元情報を一元的に管理し、誰がどの情報やシステムにアクセスできるかを適切にコントロールすることを目的とした仕組みです。
ここでいう「アイデンティティ」とは、単なるIDやパスワードだけを指すものではありません。
氏名や所属部署、役職といった基本情報に加え、各システムでの利用権限、過去のアクセス履歴などが含まれます。
つまり、「アイデンティティ管理」における「アイデンティティ」とは、デジタル環境において、「その人物が誰なのか」を証明するあらゆるデータの集まりを指します。
アイデンティティ管理では、必要な人に必要な権限だけを必要な期間提供し、不要になれば即座に取り消すという原則を基本としています。
これにより企業は、セキュリティを確保しつつ、従業員が業務に必要な情報にスムーズにアクセスできる環境を整えることができます。
2. プロビジョニング(Provisioning)
プロビジョニングとは、組織に新しいユーザーが加わった際に、必要となるアカウントや権限を自動的に付与するプロセスを指します。
これにより、管理者が一つひとつのサービスに、ユーザー情報を手動で登録する手間を大幅に削減できます。
例えば、新入社員が入社した際に、メールやコミュニケーションツール、勤怠管理システムなど、業務に必要な各種ツールのアカウントを準備する作業がこれにあたります。
SCIMを活用すれば、管理者がIdP側に一度ユーザー情報を登録するだけで、対応する複数のサービスでアカウントが自動的に作成され、プロビジョニング作業を自動化・効率化することが可能になります。
3. デプロビジョニング(Deprovisioning)
デプロビジョニングとは、前述のプロビジョニングの逆の作業で、退職や部署異動などによって不要になったユーザーアカウントを削除するプロセスです。
手動でデプロビジョニングを行う場合、作業漏れや設定ミスが生じやすいですが、SCIMを利用することで、自動的にすべての関連システムから該当アカウントを削除できます。
これにより、不要なアクセス権が残ることがなくなり、情報資産への不正アクセスのリスクを大幅に低減できます。
プロビジョニングとデプロビジョニングを組み合わせることで、常に最新かつ安全なID管理体制を維持できるでしょう。
4. IdP(Identity Provider)
IdPとは「アイデンティティプロバイダ」の略で、前述の通り、ユーザーの認証情報を一括管理し、他のサービスに安全に提供する役割を持つシステムです。
ログイン時にユーザーの身元を確認し、承認された情報をクラウドサービスへ渡します。
IdPを利用することで、管理者は全ユーザーの認証設定を一元管理でき、運用の効率化とセキュリティ強化を同時に図ることが可能です。
5. SP(Service Provider)
SPは「サービスプロバイダ」の略で、ユーザーが実際に利用するサービスやアプリケーションを指します。
SPは、IdPから受け取った情報に基づいて、ユーザー情報の登録・更新・削除といったアカウント管理の処理を自動的に行います。
ユーザーは、複数のSPに個別にログインする必要はなく、IdPで一度認証を済ませることで、複数のサービス(SP)をシームレスに利用できるようになります。
6. シングルサインオン(SSO)
シングルサインオン(SSO)は、一度の認証操作で複数のシステムを利用できる利便性の高い仕組みです。
通常、異なるサービスを利用する場合は、サービスごとにログインが必要ですが、SSOを導入することでその手間を省くことが可能です。
さらに、SSOの技術は利便性だけでなく、安全性の向上にも寄与します。
利用するサービスの数が増えると、その分管理すべきID・パスワードの数も増え、簡単なパスワードを設定したり、同じパスワードを使い回したりするケースが発生しがちです。
しかし、突破しやすいパスワードの設定や使い回しは重大なセキュリティリスクとなるため、避けるべきです。
こうした課題を解消する手段として有効なのが、SSOです。
SSOを用いることで、一度の認証操作で複数のサービスを利用できるようになるため、パスワード管理の煩雑さを解消し、セキュリティリスクを低減させることができます。
SCIM導入のメリット

SCIMを導入することで、以下のようなメリットを期待できます。
- セキュリティ強化
- 担当者の負荷軽減
SCIMの導入を検討されている方はぜひご確認ください。
セキュリティ強化
SCIMは、アカウントの削除漏れや設定ミスによって発生するセキュリティリスクへの対策に有効です。
退職者や異動者のアカウントを放置すると、第三者に不正アクセスされたり、機密情報を閲覧されたりする恐れがあり、組織にとって大きなリスクとなります。
そこでSCIMを活用すると、ユーザー情報の追加・更新・削除が自動的に反映されるため、不要なアカウントが残存するリスクを大幅に低減できます。
また、IdPとSPの間でデータがリアルタイムに同期されるため、アクセス権限の付け替えやアカウント削除といった操作も即時に反映されます。
これにより、権限の誤付与や削除漏れといった人的ミスを防ぎ、組織全体のセキュリティ強化につながるでしょう。
担当者の負荷軽減
SCIMを導入することで、システム管理者の業務負担を大幅に軽減できます。
従来、新入社員や異動者のアカウント登録・更新などの作業はすべて手動で行う必要があり、利用するサービスごとに担当者が個別に対応していました。
しかしSCIMを活用すれば、IdPとSP間でユーザー情報が自動的に連携されるため、ユーザー情報の登録から、更新・削除までの流れを一元的かつ自動的に処理できます。
特に従業員数の多い企業ほど、自動化の効果は大きく、管理コストの削減だけでなく、作業ミスの防止にもつながるでしょう。
SCIM導入のデメリット・注意点

最後にSCIMを導入する際に知っておきたいデメリット・注意点についても解説します。
導入コスト
SCIMを導入する際は、システム連携やカスタマイズに伴う初期コストが発生します。
特に既存の認証基盤を大幅に見直す必要がある場合や、大規模な企業で展開する場合には、システム構築費用に加えて、運用担当者の教育コストも増える傾向があります。
ただし長期的に見れば、手作業によるID管理の削減やセキュリティリスクの低下によって、結果的に運用コストを抑えられるケースも多いです。
そのため、短期的なコストだけでなく、運用の最適化やリスク削減といった長期的な視点で検討することが重要です。
既存システムとの適応難易度
既存システムとの整合性についても事前に考慮しておくべきポイントです。
特に古いオンプレミス環境や独自仕様のシステムを利用している場合、そもそもSCIM対応していない、あるいは連携が難しい可能性があります。
また、連携設定やAPIの調整に専門的な知識が必要となる場合もあり、システム構築の初期段階でつまずく企業も少なくありません。
こうしたリスクを回避するには、事前に自社システムがSCIMと適合するかを確認し、段階的に導入を進めることが重要です。
適合性を確認した上で、段階的に導入を進めることで、安定した運用を実現できるでしょう。
まとめ
本記事では「SCIM」をテーマに、仕組みや特徴、メリット・デメリットなどを解説しました。
本記事のまとめ
- SCIMとは、異なるシステム間でID情報を自動的に連携・管理するためのプロトコル
- SAMLはシングルサインオン(SSO)を実現するためのフェデレーションプロトコルだが、SCIMは、認証情報の提供や同期を行うIDプロビジョニングプロトコルという違いがある
- SCIMを導入することで、「セキュリティ強化」や「担当者の負荷軽減」といったメリットが期待できる
- SCIMを導入する際は、「導入コストの発生」や「既存システムとの整合性」といった課題を考慮する必要がある
SCIMを活用することで、異なるシステム間でもID情報を自動的に連携できるようになります。
これにより、従業員の入社・異動時のアカウント登録や更新、退職時のアカウント削除を漏れなく迅速に行うことができます。
クラウドサービスの利用が拡大する中、人的ミスを防ぎ、情報管理の精度を高める仕組みとして「SCIM」は非常に有効です。
今後、「SCIM」に対応するクラウドサービスはますます増加することが予想されるため、セキュリティ対策や業務効率化の取り組みの一つとして、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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