Written by 厚山 耕太
SYNCPITの立ち上げを行い、プロダクトマネージャーとして活動。
製品企画・設計からマーケティング、プロモーションなど全責任を担う。
また、プロダクトデザインチームを率い、製品横断でUI改善・UX向上を進める。
目 次
・Syncpit 開発チームが選んだアプローチとは
・予想外の部署からSyncpit 開発チームに入った「ちょっと待った!」
・浮かび上がった問題点。チャットボットやRPA が導入しづらい3つの理由。
・Syncpit が選んだアプローチ。製品をバックオフィス業務に特化させることで、下げられた3つのコスト。
・ツッコミを入れられるということは、前に進められるということ。白紙に対してはツッコミを入れられません。
情シス業務を「ワンクリック」自動化。
Syncpit製品カタログ
今さら聞けないチャットボットの基本を解説し、チャットボットを導入するメリットや企業での導入事例をご紹介。
チャットボット(chatbot)とは?導入のメリットと最新事例
「この絵から間違いを3つ探してください」or「白紙に何でも好きなものを書いてください」
どちらが着手しやすいですか?
Syncpit 開発チームが選んだアプローチとは
前回までは(※1)(※2)、Syncpit のコンセプトや、どのような想いでデザインしてきたかについて書かせていただきました。
今回は、Syncpitが次の一歩であるVer.2.0として「FAQチャットボットを開発するまでに至った経緯」や「他AIチャットボットと何が大きく違うのか?」このあたりを中心にお話しさせていただきます。
(※1)情シス業務を”ワンクリック自動化” 新製品「Syncpit」 https://www.lanscope.jp/product/12040/
(※2)無形のコンセプトから、有形のプロダクトへ「Syncpit」UXデザイナーの想い https://www.lanscope.jp/product/13579/
予想外の部署からSyncpit 開発チームに入った「ちょっと待った!」
数ヶ月前のある日、情シス担当者にストレートな質問をぶつけてみました。
「社内からの問い合わせって、なんで減らないんでしょうか?」
返ってきた答えは分かりやすく「こっちが知りたい…」でした。”わかっていたら既に改善してる!”そんなニュアンスも入っていたと思います。そこで引き下がるわけにはいかないSyncpit開発チームは、その「なぜ?」について深掘りしてみました。辿り着いた1つの理由がこちらです。
「業務効率化という名の元、複雑になり続ける業務フロー」
日々の業務は複数のタスクで構成されています。そして、様々なデバイスを利用し、いくつものツールやクラウドサービスを連携させることで成立しています。こういった業務は、特定の個人や特定の部署における効率化が進んでいる一方で、新入社員や業務に不慣れな人には難しく「誰かに聞くしかない」状況です。前回記事(※1)の通り、Syncpitは、『情シスの盾』になることを目指していました。業務システムや業務プロセスを日々守り続けている情シスを守るために。そんなSyncpitが次に解決するべき課題は、この「聞くしかない状況にいる人」であり、「日々繰り返される社内の問い合わせ対応」だと確信しました。
そのような流れで、製品スコープを定め設計に入ろうとしていた私たちに、思いもよらない部署から「待った!」がかかりました。人事総務部門です。「日々の問い合わせに苦労しているのは情シスだけではない!人事総務も同じだ!」「チャットボット、RPA、様々な自動化ツールを検討している我々もSyncpitの製品スコープに入れてもらえないか!」と、声がかかりました。
『情シスの盾』として進もうとしていたSyncpitにとって、総務業務や人事業務はスコープ外だったのですが、状況を整理していくうちに、抱えている問題や課題は同じであることが見えてきました。同じ課題に対して、同じアプローチで解決できそうな道が見えたので、Syncpitを『情シスの盾』から『バックオフィスの盾』として考え直すようになっていました。
浮かび上がった問題点。チャットボットやRPA が導入しづらい3つの理由。
『バックオフィスの盾』としてSyncpitチームは情報システム部門、総務部門などのバックオフィス部門にヒアリングを重ねました。その結果、見えてきたのは「バックオフィス共通で抱えている課題」です。それは、「問い合わせ対応や定型業務を自動化する」というお題目の下、AIチャットボットやRPA導入を検討しているものの、実際の導入までにはいたっていないということです。その中でもAIチャットボットに踏み切れていない理由は次のようなものでした。
2:予算がとれない。違いがわからないので、とりあえずトライアルしたいが、導入費用とSI費用が高い。
3:時間がない。初期作業としてFAQコンテンツを準備しなければならず、さらにAIを育てるために3ヶ月
~6ヶ月かかるらしい。さらに、運用しながらAIを育て続けなければいけない。
さらに、他社事例として「AIを育てきれず、結局シナリオベースのチャットボットに戻った」という話も耳にしており、「どこから試していいかわからない」という状況でした。
Syncpit が選んだアプローチ。製品をバックオフィス業務に特化させることで、下げられた3つのコスト。
先ほど触れた「3つのない」という状況をみて、どのようにしたら導入しやすく、運用し続けられるチャットボットができるか?『バックオフィスの盾』となるSyncpitは考えました。考えると同時に、お客様にヒアリングを重ね、辿り着いたのが「徹底的に製品をバックオフィスに特化させる」ということです。その代償として「なんでもできます!」は捨てましたが、バックオフィス業務における「導入コスト」「運用コスト」を下げるアプローチが取れました[表1]。ここでいうコストとは「時間」「お金」「学習」を指しています。
まず、導入コストを下げるため、「FAQチャットボットを30分で環境構築し、トライアル開始できる」ということに注力しています。導入コストを徹底的に下げることで、製品を少しずつ試していただきながら「これなら使えるかも」という実感を持っていただきます。その後、「使える」実感をバックオフィスメンバー内に伝播いただけるような工夫も入れています。
ツッコミを入れられるということは、前に進められるということ。白紙に対してはツッコミを入れられません。
具体的に、Syncpitが製品に組み込んだ特長は次の3つです。
特長2:プリセットFAQ内の文言やリンク先は、一括更新できるようにメンテナンス性を確保
特長3:ダッシュボードによる「改善ポイント」の見える化
ひとつずつ順に見ていきます。
1つ目の特長『バックオフィス特化型プリセットFAQ』とは、どういうことか?具体例を出してみます。例えば「パスワード忘れました」「パスワードリセット方法を教えてください」・・・このような問い合わせは、日本全国津々浦々、毎日のようにいたる組織で繰り返されています。このような「どの企業にもある日々の問い合わせ」をプリセットコンテンツとしてFAQチャットボットに搭載しました。このプリセットを稼働させるまでに必要な手順は、たった3ステップです。
STEP2:プリセットFAQで使われている一般用語を社内用語に一括置換する(特長2)
STEP3:プリセットFAQで使われているリンクを社内ファイルサーバーやクラウドストレージのリンクに一括置換する(特長2)
これだけで使い始められます。まずは馴染みのFAQから動かしていただき、体感として「こんな感じで設定でき、こう動くのか」と慣れていただきます。その後、プリセットされた文言をカスタムいただき、より運用に乗るものに仕上げていきます。また、プリセットが全てではなく、白紙のテンプレートから独自のFAQも構築いただけます。単純な一問一答形式のFAQから、条件分岐が入るようなタイプのFAQまで構築できます[図1]。
[図1]
これらのコンセプトのモックを見ていただいたお客様のリアクションは「確かに、これなら始められる!」というものでした。何が今までのチャットボットと違ったのか。それは、準備されているプリセットから始められるという点です。なんでもできる白紙を渡された場合、初めの一歩は「考える」、そして「正解や事例を探す」といった形で進みます。一方で、プリセットされたFAQがあると「コレは使う」「コレは使わない」「コレは使うけど、少し違う」「用語はコレに変えたい」など、ツッコミを入れながら進められます。白紙に新しいものを作るのは時間も体力も使いますが、ツッコミを入れるという行為においては、かなり初速が違うようです。
このように、ツッコミを入れていただきながら、2つ目の特長にあげた一括変更可能なメンテナンス機能で、自社オリジナルコンテンツにしていけば、後は運用を開始いただくだけです。
準備したプリセットは、『バックオフィス特化型』と宣言している通り、情シスFAQのみならず、総務FAQや人事FAQなども搭載しています。まずは、特定の部署でスモールスタートいただき、効果が見えてきたら少しずつプリセットをカスタムし、運用いただけたらと思います。
次に、3つ目の特長です。運用を始めると、3つ目の特長であるダッシュボードが活きてきます。
「この情報は役に立ちましたか?」の「YES」「NO」ボタン、私は押したことがありませんでした。
FAQサイトなどに設置されているこの設問、皆さんどちらかのボタンを押されたことはあるでしょうか?私はこのボタンを押したことがありませんでした。自分が使わないような仕組みを製品に組み込みたくなかったので、別の手法でFAQボットの効果測定ができる仕組みを考え搭載しました。
この仕組みにより「どのFAQが実際の問い合わせに繋がっているか?」「どのFAQがよく活躍しているか?」がダッシュボードで確認できます。このダッシュボードをチェックいただくことで、改善につなげていただけると同時に投資対効果の把握も実施いただけます。
「問い合わせ」の次に待つ「依頼」。一歩先回りしてセルフサービス化を推し進めるSyncpit。
バックオフィスに特化したFAQチャットボットの導入障壁の低さ、実際に画面を見ていただかないとなんとも判断いただけないかと思うのですが、想いや雰囲気は感じ取っていただけましたでしょうか。ここからは、“さ・ら・に”といった話です。
FAQチャットボットで問い合わせを上手に捌けるボットが手に入った後、次に待っているのは「依頼」です。例えば「パスワード忘れた」といった場合を考えてみます。まず、どうしたものか?どこに問い合わせたらいいのか?ここをFAQチャットボットにて解決できたとします。おそらく次に待っているステップは、「情シスへのパスワードリセット依頼」です。
Syncpitは、「問い合わせ」対応のFAQチャットボットだけにとどまらず、システム連携を行い「依頼業務」を「セルフサービス業務」に変換しています。例えば、先ほどのパスワードリセットの例、SyncpitとLanScope An を連携設定しておけば、ユーザーは自分自身でパスワードリセットを実行することができます[図2]。
[図2]
Ver.2.0の「バックオフィス特化型チャットボット」は、Syncpitの序章です。
Ver.2.0で「問い合わせ」問題を解決したSyncpitは、次バージョン以降で「依頼業務をセルフサービス化」をさらに推し進めていきます。現時点でも様々なクラウドサービスやAPIとの連携を視野に入れています。ここを推し進め、お客様の課題を一つひとつ解決しながら、進化していきますので、Ver.2.0以降のロードマップにもぜひご期待ください。
「SYNAPSEエンジン」
最後に、AIについて触れて締めさせていただきます。SyncpitのFAQチャットボットは、必要十分な自社開発のAIを搭載しております。AIと呼ばれる中でも特に「自然言語処理」と「機械学習」に特化したものです。確かにAIを搭載しているのですが、あまり推すべきものとして考えていません。なぜならそれはお客様の課題ではなく、課題解決のイチ手段だからです。「さりげなくそっと使っている」くらいが製品としては「美しい立ち位置」じゃないかと考えております。
そうはいっても裏舞台では、エムオーテックスのエンジニアが「いかにバックオフィスに特化したAIエンジンをつくりあげるか!」を命題に、自社AIエンジンである「SYNAPSEエンジン」を磨き上げています。エンジニアの不断の努力もありますので、最後に「バックオフィス特化型AIエンジンを磨き続けている」とだけ、添えさせていただきます。ありがとうございました。
関連する記事