Written by Aimee

目 次
情報セキュリティガバナンスとは、企業・組織が保有する情報資産を適切に管理し、サイバー攻撃や内部不正などの脅威から防御するため、セキュリティリスクを最小限に抑えるための戦略的枠組みおよび管理プロセスを指します
情報セキュリティガバナンスを確立することで、企業・組織は以下のようなメリットが期待できます。
▼情報セキュリティガバナンスの導入メリット
- ・ 経営層から現場の従業員まで、リスクと対策に関する共通認識の確立
- ・ 個人情報保護法など、法令遵守の徹底(コンプライアンス強化)
- ・ 適切なセキュリティ対策の実施による、ブランド価値と競争力の強化
この情報セキュリティガバナンスを確立するためには、経済産業省が公表する「情報セキュリティガバナンス導入ガイダンス」 に掲載されている、以下5つの要素で構成されたフレームワークの活用が有効です。
- 1. 方向付け(Direct):経営層が情報セキュリティの基本方針や戦略を策定し、組織全体のセキュリティ目標を設定
- 2. モニタリング(Monitor):セキュリティ対策の実施状況を監視し、新たなリスクや脆弱性を早期に発見
- 3. 評価(Evaluate):施策の有効性を定期的に評価し、必要に応じて改善策を策定
- 4. 監督(Oversee):経営層が組織全体の情報セキュリティ対策を監視し、適切なリソースを配分
- 5. 報告(Report):インシデント発生状況やセキュリティ施策の進捗を経営層および関係者に適切に報告し、透明性を確保
また、情報セキュリティガバナンスと混同されやすい概念に「ITガバナンス」がありますが、両者の目的と対象範囲には、以下のような違いがあります。
情報セキュリティガバナンス | 企業のすべての情報資産を監視・保護(IT以外の情報も含む) |
---|---|
ITガバナンス | 企業のITリソースの最適活用を監視・管理 |
情報セキュリティガバナンスは、ITシステムだけでなく、紙媒体の機密情報や物理的セキュリティ、人的リスク管理も含む広範な概念です。
この記事では、情報セキュリティガバナンスの必要性や、確立を支援するためのフレームワークなどを解説します。
▼この記事を要約すると
- 情報セキュリティガバナンスとは、企業や組織が保有するすべての情報資産を適切に管理・保護し、セキュリティリスクを最小限に抑えるための戦略的枠組みやプロセス全般
- セキュリティガバナンスが重要視される理由としては、「リスクや対策についての共通認識を深められる」「法令遵守の徹底が期待できる」「ブランド価値の向上につながる」などが挙げられる
- 情報セキュリティガバナンスのフレームワークは、「1.方向付け(Direct)」「2.モニタリング(Monitor)」「3.評価(Evaluate)」「4.監督(Oversee)」「5.報告(Report)」の5つで構成される
情報セキュリティガバナンスとは
情報セキュリティガバナンスとは、企業や組織が保有するすべての情報資産を適切に管理・保護し、セキュリティリスクを最小限に抑えるための戦略的枠組みおよび管理プロセス全般を指します。
効果的な情報セキュリティガバナンスが確立されていない場合、以下のようなリスクが発生する可能性があります。
- ・ 情報漏洩による法的責任や社会的信用の低下
- ・ 不正アクセスやサイバー攻撃による金銭的損失
- ・ システム障害やデータ損失による業務の停止
これらのリスクを防ぐためには、情報セキュリティポリシーの策定、リスク管理の強化、従業員へのセキュリティ教育の徹底など、組織全体での包括的な取り組みが必要です。
情報セキュリティガバナンスの整備は、単にセキュリティ対策を強化するだけでなく、事業の継続性(BCP)を確保し、持続的な成長を支える基盤を形成する役割も果たします。

情報セキュリティガバナンスはなぜ重要?
情報セキュリティガバナンスが重要視される主な理由として、以下の3点が挙げられます。
- ・ リスクと対策に関する共通認識の確立
- ・ 法令および規制の遵守(コンプライアンス強化)
- ・ ブランド価値と競争力の向上
1. リスクと対策に関する共通認識の確立
情報セキュリティリスクに適切に対応するためには、経営層から現場の従業員に至るまで、組織全体でリスクとその対策に関する共通認識を持つことが不可欠です。
特に、経営層がリスクを正しく認識し管理できていない場合、適切な対策を講じることが困難となり、セキュリティ対策の遅れや脆弱性の放置につながる可能性があります。
そのため、情報セキュリティガバナンスの確立は、経営層が主体となり、リスク管理を組織全体に適用する仕組みを構築することが重要です。これにより、一貫した方針のもとでリスク対応が実施され、組織全体のセキュリティ水準を向上させることができます。
2. 法令および規制の遵守(コンプライアンス強化)
情報セキュリティガバナンスを確立することで、企業は法令や業界標準への準拠を徹底し、コンプライアンス強化を図ることが可能となります。
具体的には、以下のような法規制やガイドラインへの適合が求められます。
- ・ 個人情報保護法(日本)、GDPR(EU一般データ保護規則):個人情報の適切な管理
- ・ サイバーセキュリティ基本法(日本):企業や公共機関におけるサイバーセキュリティの確保
- ・ NISTサイバーセキュリティフレームワーク(米国):リスクベースのセキュリティ管理策の指針
ガバナンス体制が整備されていれば、適切なポリシー策定やリスク評価、監査の実施が可能となり、法令違反による罰則や訴訟リスクを低減できます。
3. ブランド価値と競争力の向上
情報セキュリティガバナンスの整備は、企業の社会的責任(CSR)の一環としても重要です。
企業が適切な情報セキュリティ対策を実施していることを顧客や取引先に示すことで、以下のようなメリットが得られます。
- ・ 信頼性の向上:セキュリティ対策を強化することで、顧客やパートナー企業からの信頼を獲得
- ・ 競争優位性の確保:キュリティ対策が不十分な企業に比べ、ビジネス上の優位性を確立
- ・ 市場価値の向上:サイバーセキュリティ対策が評価され、投資家やステークホルダーからの信頼が向上
特に、金融機関や医療機関、インフラ関連企業などの高リスク業界では、情報セキュリティ対策の有無が取引条件となるケースも増えており、適切なガバナンスの確立は企業の持続的な成長にも直結します。
情報セキュリティガバナンス、
コーポレートガバナンス、ITガバナンスの違い
情報セキュリティガバナンスとコーポレートガバナンス、ITガバナンスは、それぞれ異なる目的を持ち、企業運営において重要な役割を果たします。本記事では、それぞれのガバナンスの違いについて解説します。
情報セキュリティガバナンスとコーポレートガバナンス
情報セキュリティガバナンスとコーポレートガバナンスは、以下のような違いがあります。
情報セキュリティガバナンス | 情報資産の保護とセキュリティリスクの管理に焦点を当てている |
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コーポレートガバナンス | 組織全体の経営の透明性、公正性、効率性を確保することに焦点を当てている |
コーポレートガバナンスは、企業が適切に運営されるための仕組みやプロセスを指します。経営の透明性を確保し、株主やステークホルダーの利益を最大化することを目的とします。
具体的には、以下の要素を含みます。
- ・ 経営戦略の策定、実行、監督のプロセス
- ・ 法令遵守(コンプライアンス)と企業倫理の確立
- ・ 取締役会や監査機関による経営の監督
企業が社会的責任(CSR)を果たし、投資家や取引先からの信頼を維持するためにも、コーポレートガバナンスの強化が求められます。
一方、情報セキュリティガバナンスは、企業内のすべての情報資産を保護し、セキュリティリスクを管理する枠組みです。機密性(Confidentiality)、完全性(Integrity)、可用性(Availability) の3要素(CIAトライアド)を維持し、サイバー攻撃や内部不正、データ漏洩などのリスクを低減することを目的とします。
具体的な対策の一例として、セキュリティポリシーの策定やインシデント対応計画、CSIRTやSOCの構築などが該当します。
コーポレートガバナンスが企業全体の経営管理に関わるのに対し、情報セキュリティガバナンスは、情報の保護とリスク管理に特化した戦略的枠組みである点が大きな違いです。
情報セキュリティガバナンスとITガバナンス
情報セキュリティガバナンスとITガバナンスの違いは以下のとおりです。
情報セキュリティガバナンス | 企業のすべての情報資産を管理・保護(IT以外の情報も対象) |
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ITガバナンス | 企業のITリソースを最適に活用し、経営目標の達成を支援 |
ITガバナンスは、企業が情報技術(IT)を効果的に活用し、戦略的目標を達成するために必要な枠組みです。具体的には、企業が保有するITインフラ、システム、ソフトウェアを最適に運用するための方針や手順が含まれ、企業の長期的な戦略の支援を目的としています。
ITガバナンスは、技術インフラやデジタル変革(DX)の推進を含む広範な領域を扱います。
一方で、情報セキュリティガバナンスは、ITだけでなく紙媒体の文書、物理的セキュリティ、人的リスクも対象とします。例えば、以下のような違いがあります。
- ・ ITガバナンス:業務効率向上のためのIT戦略やインフラ整備を担当
- ・ 情報セキュリティガバナンス:ITに限らず、データ保護やコンプライアンス対策を含む
ITガバナンスは技術的な視点が強いのに対し、情報セキュリティガバナンスは、リスク管理とコンプライアンスの視点を重視するという違いがあります。
情報セキュリティガバナンスの確立を支援するフレームワーク
経済産業省の「情報セキュリティガバナンス導入ガイダンス」 によれば、情報セキュリティガバナンスのフレームワークは、以下の5つで構成されています。
- 1. 方向付け(Direct)
- 2. モニタリング(Monitor)
- 3. 評価(Evaluate)
- 4. 監督(Oversee)
- 5. 報告(Report)
それぞれの要素がどのように機能するかを詳しく見ていきます。
1. 方向付け(Direct)
経営層が情報セキュリティの目標や優先事項を設定し、組織全体にビジョンを浸透させるフェーズです。
情報セキュリティの取り組みを組織全体に浸透させるためには、まず経営層が明確な方針を示し、組織全体の目標を定めることが不可欠です。経営層は、情報セキュリティを単なる技術的な課題ではなく、企業の持続的な成長や競争力の向上に直結する経営課題として捉える必要があります。
経営層は、以下のような項目を決定し、組織の戦略に組み込むことが求められます。
- ・ 情報セキュリティ方針の策定
- ・ リスク評価の実施(どのリスクを優先管理するか)
- ・ 適用すべきフレームワークの選定(ISO 27001、NISTなど)
2. モニタリング(Monitor)
組織内で策定された情報セキュリティ対策が適切に実施されているかを継続的に監視し、潜在的なリスクや新たな脅威の発生を早期に検知することが、このフェーズの目的です。
モニタリングの対象は、サイバー攻撃や不正アクセスの兆候だけではなく、内部のセキュリティポリシーが遵守されているかどうかも含まれます。例えば、SOC(Security Operation Center)の運用によるリアルタイムの脅威監視や、従業員のセキュリティ意識向上のための定期的なトレーニングも、モニタリングの一環となります。
また、経営層は、情報セキュリティにかけた投資が適切に機能しているか、業務効率への影響がないかを定期的に評価し、必要に応じてリソースの再配分を行うことが重要です。
3. 評価(Evaluate)
評価(Evaluate)では、モニタリングの結果をもとに、組織のセキュリティ対策が、期待した効果を発揮しているかを評価します。この評価プロセスでは、定期的なリスクアセスメントを実施し、既存の対策が現状の脅威環境に適合しているかを見直します。
組織内のセキュリティ対策に加え、外部委託先や、クラウドサービスプロバイダーのセキュリティ管理状況についても評価を行うことが求められます。サプライチェーン全体のセキュリティリスクを考慮し、適切な監査や改善策を講じることで、組織全体の安全性を確保することが可能となります。
4. 監督(Oversee)
監督(Oversee)は、情報セキュリティ対策が適切に実施され、組織全体で機能しているかを継続的に確認し、必要な改善を行うフェーズです。経営層や取締役会、CISO(最高情報セキュリティ責任者)は、内部監査や外部監査を活用し、情報セキュリティポリシーが適切に遵守されているかを確認します。
監督の役割は、単に現行の対策を評価するだけではありません。新たな脅威や法規制の変更に対応するため、ポリシーやプロセスを柔軟に見直し、組織全体のセキュリティレベルを継続的に向上させることも求められます。
例えば、新しい技術の導入やクラウド移行が進む中で、既存のセキュリティ対策が適応できているかを定期的に検証し、必要に応じてアップデートすることが重要です。
5. 報告(Report)
報告(Report)は、情報セキュリティに関する取り組みやリスク状況を、経営層やステークホルダーに対して定期的に報告することも、ガバナンスの重要な要素です。
報告の対象は、セキュリティインシデントの発生状況やその対応、リスクマネジメントの進捗、施策の効果検証などが含まれます。経営層が適切な意思決定を行うためには、客観的なデータに基づいた定量的な評価が必要であり、そのためにはKPI(重要業績評価指標)やKRI(重要リスク指標)を活用することが有効です。
また、情報セキュリティへの取り組みを社内外に公表することで、企業の透明性を確保し、顧客や取引先からの信頼を向上させる効果も期待できます。特に、金融機関や医療機関などの高度なセキュリティ対策が求められる業界では、定期的な報告を行うことで、取引先の安心感や市場競争力の強化にもつながります。
情報資産の適切な管理を支援する
LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版
情報セキュリティガバナンスを強化するためには、組織の情報資産を適切に管理し、リスクを可視化・制御する仕組みが不可欠です。その一環として、IT資産の一元管理や操作ログの監視、ポリシーに基づくアクセス制御を行うことは、情報漏洩や不正アクセスのリスクを最小限に抑える上で極めて重要です。
MOTEX(エムオーテックス)が提供する、LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版では、PCやスマートフォン、タブレットなどのデバイスをクラウド上で一元管理する、IT 資産管理・MDM ツールです。
企業・組織のデバイスの適切な管理とセキュリティポリシーの徹底を図り、情報セキュリティガバナンスの強化を支援します。
管理対象のPC・スマートフォン・タブレットのハードウェア情報や設定情報を自動取得し、常に最新の情報資産台帳を管理コンソール上で生成・更新できます。これにより、企業内の情報資産の可視化が進み、不適切なデバイス利用や管理外の端末によるセキュリティリスクを未然に防ぐことが可能です。
また、プリンターやルーターなどの周辺機器も一元管理できるため、エージェントをインストールできないデバイスを個別に管理する負担を軽減し、統合的なIT資産管理を実現します。
LANSCOPE エンドポイントマネージャー クラウド版には、情報セキュリティガバナンスに欠かせない、豊富な機能が備わっています。
▼機能の一例
- ・ 操作ログの自動取得:PC・スマホの操作ログを記録し、不審な挙動を把握
- ・ 利用状況の可視化:デバイスの使用状況を「レポート」で見える化
- ・ ポリシーに基づくアクセス制御:あらかじめ設定したルールに基づき、利用制限やアラート通知を実施
- ・ 紛失・盗難時のリスク低減:リモートロックやリモートワイプ機能により、端末の不正利用を防止
- ・ Windowsアップデート管理:OSの最新状態を維持し、脆弱性を最小限に抑える
詳しい機能は、以下のページよりご覧ください。
まとめ
本記事では、「情報セキュリティガバナンス」の概要と、その確立が重要である理由について解説しました。
本記事のまとめ
- 情報セキュリティガバナンスとは、企業や組織が保有するすべての情報資産を適切に管理・保護し、セキュリティリスクを最小限に抑えるための戦略的枠組みやプロセス全般
- セキュリティガバナンスが重要視される理由としては、「リスクや対策についての共通認識を深められる」「法令遵守の徹底が期待できる」「ブランド価値の向上につながる」などが挙げられる
- 情報セキュリティガバナンスのフレームワークは、「1.方向付け(Direct)」「2.モニタリング(Monitor)」「3.評価(Evaluate)」「4.監督(Oversee)」「5.報告(Report)」の5つで構成される
情報セキュリティガバナンスを確立することで、セキュリティリスクを適切に管理し、組織の情報資産を保護するための施策が適切に実行されるようになります。これにより、情報漏洩による社会的信用の低下、業務停止、法令違反による罰則といった深刻なリスクの回避が期待できます。
サイバー攻撃の高度化やクラウド活用の拡大に伴い、ビジネス環境における情報セキュリティの重要性がますます高まる昨今、組織全体でセキュリティガバナンスを確立・実践することは、もはや必須の要件と言えるでしょう。

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